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⑤
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雰囲気に呑まれるまま、俺は一ノ瀬くんに、寝室へと連れて来られた。
俺はベッドに腰掛け、一ノ瀬くんはカーペットの上から俺を見上げてくる。
「……それで、佐伯さんが俺に本当のことを言ってくれなかった理由って何ですか」
俺の両手を握りながら、一ノ瀬くんが問い掛ける。
多分それは、俺に少しでも楽に話してもらう為だと思う。
「…俺は……」
でも、それでも、その温かさが今の俺には毒で。
一ノ瀬くんことを全然分かっていなかったとか。
ずっと困らせてばっかりだったとか。
これを言ったらどんな反応をされるのか、とか。
不安で、自分が情けなくて、申し訳無くて、心が不安定になる。
「ごめ、なさいっ……」
頬を流れたものは、ぱた、と一ノ瀬くんの手に落ちた。
ちゃんと話したいと思うのに、涙を止めようと必死になる程、余計にしゃくり上げてしまう。
さっきから泣いてばかりで、その度に涙を擦るから顔が痛かった。その為か、一ノ瀬くんは片手で俺の手を押さえ、優しく涙を拭ってくる。
「…焦らなくても大丈夫です。ちゃんと聞いてますから、落ち着いて話してください」
俺は頷いて、何度か深い深呼吸を繰り返した。
喘ぐように酸素を求める。
(もう嫌だ……)
どうしてこうも俺は、一ノ瀬くんに迷惑を掛けてしまうのだろうか。
気持ちとは反して、俺は一ノ瀬くんを幸せにはしてあげられない。それが嫌だった。
そして、呼吸が落ち着いてきてから、俺は言葉を紡ぐ。
「……俺、怖かったんです……」
▽ ▽ ▽
それから俺は、色んなことを一ノ瀬くんに話した。
時間にすれば、1時間も話しただろうか。
今まで頭の中だけで悶々と考えていたことを全部吐き出せたから、今ではすごく心が落ち着いていて。
多分それは、一ノ瀬くんが俺の言葉を素直に受け止めてくれたからだ。
「──佐伯さん、本当に俺のこと好きですね」
全部を話し終えた後で、一ノ瀬くんがそう俺に言ってくる。もう何もかも言ってしまった後だから、俺は嘘を吐いたりしない。
「……好き、ですよ」
控えめに答えると、一ノ瀬くんは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「もう一回」
「もう一回?」
「俺のことが好きだって、聞きたいです」
「そんなの、今じゃなくたって…」
「お願いです。今、聞きたい」
「なんで……」
一ノ瀬くんの手が俺の頬に伸びて来て、一ノ瀬くん自身も俺に近付いてくる。
(そんなの……)
ずるいだろ。
「……っ…好き…」
太股の間に一ノ瀬くんの片膝が乗り、俺の逃げ場を無くす。
俺は一ノ瀬くんにされるがまま、短いキスを何度も何度も繰り返した。
「もっと……」
「ん…っ、好き…好き、です…っ…」
一ノ瀬くんの言葉に頭が麻痺しそうになって、俺は息継ぎの合間に、幾度となく同じ言葉を口にする。
こんな変な感覚に溺れて、もうどうにかなりそうだった。
(どうしてこんな……)
いつもの一ノ瀬くんなら有り得ないくらいに、今はすごくがっついてくる。それでも俺は嫌じゃなかったから、それも全部受け入れて。
心臓は、壊れるくらいに煩い。
「……佐伯さん」
やっと離れたかと思って、俺は一ノ瀬くんの顔を見上げた。その先では、
「え……」
一ノ瀬くんが、泣いていた。
(なんで、泣いてるの……?)
一ノ瀬くんは、俺に泣き顔を見せまいと手で目元を覆う。
俺は困惑して、涙を拭ってあげるとか、気の利いたことを何もしてあげることが出来なかった。
「……すみません」
一ノ瀬くんの泣いている姿なんて、初めて見たような気がする。一ノ瀬くんの声は震えていた。
「なんか、すごく……嬉しくて。ずっとずっと、佐伯さんが遠くにいるみたいで……それなのに、俺、やっと…っ」
珍しく、一ノ瀬くんの言葉はまとまっていない。
きっと本人も、どうしたらいいのか分からなくなってるんだ。
(俺と同じ……)
今までずっと、一ノ瀬くんは完璧な人だと思っていたから、俺はそう思って嬉しくなった。
しかし一ノ瀬くんは、すぐ真っ直ぐに俺の目を見て、何か吹っ切れたように微笑む。
「…そしたら、佐伯さんはもう俺のものです。他の誰にも渡しまんよ」
だから俺も、少しだって視線を逸らさない。
一ノ瀬くんもう俺のもので、俺は一ノ瀬くんのものになったから。
「そう言ったら、俺だって……一ノ瀬くんはずっと俺の側にいてくれなきゃ駄目ですよ」
「それは、勿論です。佐伯さんが嫌だって言っても離れませんからね」
「…そんなの、上等です」
それからしばらく見詰め合って、その後で弾けたようにお互い声を出して笑う。
「佐伯さん、大好きです」
「はい。俺も、一ノ瀬くんが大好きです…」
一ノ瀬くんと同じ気持ちが返せることが、俺にはこの上なく嬉しくて。
一ノ瀬くんは俺の髪に手を添え、俺は、優しく押し倒された。
(やっと、通じた……)
そして、俺と一ノ瀬くんは、2人できつく抱き締め合うのだった。
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