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再会①
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結局、お預けとやらはうやむやにされたまま、あれからは何も無くて、平日は過ぎ去った。
それに、一ノ瀬くんから触れてくることも少なくなって、あの時に泣いてしまったことは少し後悔している。
触れて欲しくない訳では無いんだけど、それが上手く一ノ瀬くんに伝わらなかったのだろうか。
「……佐伯さん」
休日は特にすることも無く、適当にテレビの内容を受け流していると、ふと一ノ瀬くんに声を掛けられる。
時刻は、昼少し前。
「何ですか?」
俺が返事をすると、一ノ瀬くんは無言でテレビの画面を消す。俺は思わず、テレビ画面と一ノ瀬くんを交互に見た。
「今日、用事無いですよね」
「…無い、ですけど……」
その言葉に、一ノ瀬くんは良かった、と僅かに表情を緩める。
先週休日出勤したのに、今日まで休みじゃないなんて、そんなのは有り得ない。てか嫌だ。
一ノ瀬くんは何が言いたいのだろう、と俺は首を傾げる。
「どうかしたんですか?」
俺が聞くと、一ノ瀬くんはいつもよりも控えめな物言いで言った。
「…どこか、食べに行きませんか」
食べに行く、ということは、勿論昼食としてだろう。でも、どうしてかが分からない。
俺が理由を問い掛ける前に、一ノ瀬くんは先に口を開いた。
「何か俺、焦り過ぎてましたね。だから、もう少し、佐伯さんと仲良くなりたいと思ったんです」
「え……」
仲良くないんですか、と聞こうしたが、それは何だか躊躇われて、俺は言葉を飲み込んだ。それを悟ったのか、一ノ瀬くんは少し笑って言う。
「友達……って言うと変かもしれませんけど、恋愛とは少し離れて佐伯さんと仲良くなりたいんです」
(なるほど……)
つまりは、恋人として仲良くなる前に、友人的な友好関係を築きたいという訳だ。
一ノ瀬くん自身も、触れる頻度が多くなっていることに気付いて言っているのだろうか。
多分、恋人らしいことが無いと、この関係が曖昧になりそうで、一ノ瀬くんも不安になるのだろう。だから、こんなにも俺に触れてきて。
俺との関係の土台を安定させることで、安心したいのだろう。
理由は何にせよ、それは一ノ瀬くんなりに考えて言ってくれたことだから、俺にはその提案を否定する理由なんて無かった。
寧ろ、すごく嬉しい。
いつもは無表情なのに、その裏では俺のことを考えてくれていたんだ。
「駄目ですか」
(……駄目な訳が無い)
俺は思わず、頬が綻んでしまう。
でも俺には、表情を取り繕うことはできないから。
緩んだままの顔で、首を横に振った。
「行きたいです」
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