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"佐伯さん、男性恐怖症なんです"
俺がそう言うと、青山さんは次こそ驚いた顔をした。なんて返せばいいのか迷ってか、すぐには言葉を返してこない。
そんな反応をされては、やっぱり言わなければ良かったなんて思ってしまう。
「…あの、やっぱりこれは忘れて…」
俺が言い掛けたところで、青山さんは長く息を吐いた。何がしたいのかと青山さんを見ていると、また緊張感の無い声が発せられる。
「なんか納得だわ」
「え?」
俺が何かを問い掛ける前に、青山さんは先に言葉を
続けた。
「佐伯さ、大学の卒業近くなって学校に来なくなったんだよ。神代……つっても分かんねぇよな。大学の後輩なんだけど、そいつが関わってからさ」
「…いや、神代のことは知ってます」
その俺の言葉に、青山さんは僅かに目を大きくした。まぁ、それはそうなるだろう。
神代のことが突っかかってくると、嫌でも反応してしまうんだ。
「知ってるんだ!じゃあ、佐伯が神代に何されたかは分かるでしょ?」
「はい」
俺は冷静に返事をするが、どうも神代のことを思い出すと腹立たしいような気持ちになる。
大学時代の佐伯さんと今の佐伯さんを比べれば、神代が佐伯さんの人生にどれだけの悪影響を与えたかなんて、すぐに分かる。
だけど俺は、大学時代の佐伯さんには何の干渉も出来ないから。
俺は佐伯さんを守れない。
もう過去の出来事だけど、そう思うと自分が悔しくなった。
そして青山さんは、大学での出来事を振り返るような話し方はせず、まるで昨日のことのように言葉を紡ぐ。
「…佐伯は、同級生のこととか、すれ違う人のこととか、極端に避けるようになって……でも訳聞く前に、佐伯は学校来なくなって、連絡も取れなくなって。
その理由も俺は知らなかったから、どうすることも出来なかったんだよ。今思うと、話しくらい聞いてやれば良かったって、少し後悔するな。
しつこく聞いてやれば良かった」
冗談っぽく言うけど、青山さんは全然楽しそうじゃない。
「………」
青山さんの話に、俺は何も言えなくなった。
佐伯さんに聞いているだけの話では、その心の全てを読み解くことなんて、到底無理なんだろう。
俺なんかが理解出来る範囲を超えている。
それだけ、佐伯さんは傷付いているんだと思う。
俺がこんな悠長に言っていることも許されないくらいに。
青山さんは、俺が返事を出来ない間に話を続けて。
「佐伯は、連絡取れてた間、俺にだけ言ってくれたんだ。
泣きながら、神代にされたこと全部話してくれた。
俺は、なんで佐伯のこと守ってやれなかったんだろうって後悔したよ。前みたいに、守ってやれなくて…」
青山さんの声は、どんどんと沈んでいく。
「前みたいに……?」
「うん」
俺の言葉に答える青山さんの笑顔は、悲しそうなものに見えた。
「大学2年生だった頃かなぁ……佐伯、上の学年の奴に襲われそうになったことがあったんだよ。そん時は授業抜けて、必死こいて学校中回って、それで、ギリなんとか助けられたんだけど。
佐伯に聞いたら、それが初めて男に襲われた経験だって言ってた」
ほら、佐伯って可愛い顔してるから、なんて青山さんは無理に笑おうとしているのが分かった。
それだけで、青山さんがどれだけ佐伯さんを大切に思っているかが伝わってきて。
そんな青山さんの姿は、少し痛々しくも見えた。
「青山さん…」
「ねぇ、1ついい?」
すると青山さんは、俺の声を遮るように言葉を発した。
実際、俺も言うことは何も無かったから、大人しく青山さんの声に耳を傾ける。
「遥斗くんと佐伯って、どんな関係?」
そう言う青山さんの声は、さっきまでの口調が嘘のように明るく戻っていた。
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