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④
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「そっか、恋人かぁ……」
青山さんは、言葉を噛み締めるように言う。
そんな恋人恋人言われたら、やたら意識してしまって、こっちが恥ずかしくなる。
青山さんは俺と佐伯さんが付き合っていることに何も言わないけど、本当はどう思っているのだろうか。
本当は。
「…気持ち悪いですか」
「え?」
「あ、いや……」
あ、やばい。
咄嗟に出てしまった言葉にそう思い、口を塞ぎたくなったが、今更遅かった。
青山さんは訝しげな表情をこちらに向けて、僅かに首を傾げる。
「なんで?」
(なんでって……)
こんなこと考えるとか、ほんと、らしくない。
付き合う前の佐伯さんみたいだ。
「…だって、男同士ですよ。気持ち悪いと思わないんですか」
周りのことなんて気にしないようにしたいとか思っていたのに、どうしてこんなことを聞いてしまうのだろうか。
言ってから後悔する。
そんなの、気にしたって仕方無いのに。
しかし青山さんは、それこそ訳が分からないとでも言うように答えた。
「思わないけど?」
だって、と青山さんは言葉を繋げる。
「嬉しいもんだよ。俺も男に告白されたことあるんだけど、それは純粋に嬉しかったし。性別なんて関係無いでしょ。好きになった人が男で、何が悪いのかね?」
「……何も、悪くないと思います」
青山さんの言葉は、あまりに正論で、俺はそれくらいしか返す言葉が見つからなかった。
身近にこの関係を理解してくれる人がいるとは思わなかったから、すごく胸が熱くなる。
ちゃんと分かってくれる人がいるんだと思うと、どこか安堵したような気持ちになった。
すると青山さんは、ぽつりと独り言のように声を漏らした。
「遥斗くんが佐伯の恋人で、ほんと良かったと思う」
俺にはその言葉を聞き逃すことは出来なくて、どういうこと、と聞き返す。
青山さんはすぐには答えず、少し間を置いてから表情を変えて口角を上げた。その眼は、何かを訴えるように力が篭っている。
「…佐伯が男性恐怖症とか言われて、正直不安だったんだけど……遥斗くんが彼氏なら安心だな。寧ろ、恋人としての遥斗くんが男で良かったって思う。
佐伯を幸せにしてやれるのは、遥斗くんしかいない。
もう、俺じゃ駄目だからさ」
青山さんは、僅かに苦痛な顔をする。
仲の良かった友人が突然男性恐怖症なのだと知らされ、怯えられている。
それはあまりに急な話で、本当なら悲しむ時間だってあってもいいはずだ。
だけどそれは、俺には計り知れないくらい、辛いことなのだろう。俺には、それがどんなものなのか、まだ理解するには至らない。
「佐伯は、俺にとっては本当に大切な友達だから、俺が守ってやりたいって言うのが、本音。
けどさ、今はもう無理だ。俺には、佐伯の全てを理解して守ってやることなんて出来ない。
佐伯のことを守れるのは、遥斗くんしかいないと思うんだ。
だから」
(あぁ……)
そんな顔されたら、見ているこっちが辛くなる。
「佐伯のこと、幸せにしてやって」
(苦し……)
目の前の青山さんは、儚げに笑うだけだ。
青山さんは一体、どれだけ佐伯さんを大切に思ってきたのか。
その全てを把握出来る訳じゃないけど、佐伯さんに対する思いは、それこそ痛いくらいに伝わってくる。
だから、せめて青山さんを安心させられるようにと思った。
「はい」
たった2文字。
そこには、俺の精一杯の決意と覚悟を込めた。
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