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⑤
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それからすぐに、佐伯さんが戻って来た。
特に変わった様子も見られなくて、本当に、ただ風に当たりに行っていただけなのだろう。
佐伯さんは何も言わず俺の隣に座ると、真っ先に俺に話し掛けてくる。
「…何か、青山と話しましたか?」
俺に聞かれたのに、青山さんはころっと調子を変え、佐伯さんに答えた。
「佐伯の話、すげぇしたから!」
表では笑っているけど、それは佐伯さんに悟られない為。そう思うと、何となく心苦しくなる。
「なんだよそれ。また余計なこと言ったの?」
「さぁ、どうだろうね」
「ほんと、変なこと吹き込まないで」
(普通……)
こうやって佐伯さんと青山さんが話しているのを見ていると、別に佐伯さんが怯えているような感じはしない。
だけど、大学時代の佐伯さんを知っている青山さんだからこそ、その微妙な変化にも敏感になるのだろう。
まぁ、俺には分かることじゃないけど。
「…どうなんですか、一ノ瀬くん」
「え?」
佐伯さんに見詰められる。
その顔は俺を問い詰めるようで。
佐伯さんが男性恐怖症だということも、俺と付き合っているということも、全部青山さんに言ったと知ったら、佐伯さんは怒るのだろうか。
きっと、全く緊張感の無い顔で怒るんだろうな。
なんて思ったり。
(面白い)
想像しただけでも、その表情は可愛くて、つい笑ってしまう。
「…な、なんで笑ってるんですか!変なこと聞いたんですか……?」
「そうですね。色々聞きましたよ」
俺は、いろんな佐伯さんの顔が見てみたいと思って、わざとそんなことを言ってみた。
すると案の定、佐伯さんは顔を赤くして。
「もう、何聞いたんですか……」
萎れた花みたいになった。
でも、佐伯さんの話を聞いたというのも、あながち間違いではないから。俺は、何も聞いていないとは言えなかった。
「大丈夫です。変なことは聞いてませんから」
「ほんとですか……?」
「はい」
ちょっとだけフォローすると、佐伯さんは少し笑った。その表情の変化も、すごく可愛くて。
佐伯さんは、綺麗なんだ。
その綺麗な心も、表情も、崩したくはない。
もう、変えられない過去は仕方が無い。
だからこれからは、出来るだけたくさん、佐伯さんの笑顔が見たいと思う。
その為に、俺は佐伯さんを守ると決めた。
「……遥斗くん」
青山さんに声を掛けられ、そちらを向くと、青山さんはもう帰るのか、腰を上げていた。
「これ、俺の連絡先な。必要な時登録しておいて」
そう言って、いつの間に書いたのか、青山さんの連絡先が書かれた小さな紙を、目の前に置かれる。
それを俺が受け取るよりも早く、青山さんは席を離れた。
「じゃ、またな」
その後、青山さんが3人分のお金を払っていてくれたことを知り、俺は佐伯さんと2人で驚いた。
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