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名前を呼んで①
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俺は一ノ瀬くんの背中に腕を伸ばし、肩に手を回した。
お互いに服を着ていないから、どこにも掴む場所が無くて、爪を立てそうになる。
それだけは避けたかったから、俺はひたすらに強く拳を握っていた。
これ以上は強く握れないという程に力を込めては、その都度力を緩め、何とか感覚を逃がそうと必死になる。
「…一ノ瀬くんはっ…この態勢が、好きなんですか…っ?」
気を紛らわせたいからなのか何なのか、俺はそんなことを口にした。
この態勢、というのは、やっぱり前と同じで。
俺が一ノ瀬くんの膝の上に乗せられて、お互い向かい合わせになる形だ。
俺が、この可怪しくなりそうな感覚に必死で耐えている中、一ノ瀬くんは涼しい顔をして言う。
「…別に、そういう訳ではありませんけど、態勢を変えたら佐伯さんが怖がりそうだったので」
(……また)
また俺の為だ。
俺はどれだけ一ノ瀬くんに心配を掛けるのだろうと、本当に情けなくなる。
だけど、この態勢を取ってくれるのは、他の誰でもない一ノ瀬くんただ1人だけなんだ。俺の好きな一ノ瀬くんだけが、俺の為にしてくれることで。
一ノ瀬くんだけ、ということに俺は安堵した。
肌が密着していることすらも、俺には安心感を与える。
神代や洸平とは違う。
この行為には心があるから。
その気遣いにも全て甘えたくなるんだ。
「佐伯さんは嫌ですか」
一ノ瀬くんは俺のことを考えてくれているんだ。
俺は全然嫌なんかじゃなかったし、仮にそうだとしても嫌だとは言えなかった。
「嫌じゃ、ない…っ…」
後孔に何度も出し入れされる一ノ瀬くんの指は絶えず俺に刺激を与えてきて、その中で会話をするのも一苦労だった。
高く上がる声を抑えようと、俺は下唇を噛む。
「ん、んっ……ぅ」
声が抑えられる変わりに、呼吸は乱れて肩が上下した。息は苦しいけど、こんな声を一ノ瀬くんに聞かれるくらいなら構わない。
指の腹は肉壁をなぞり、俺は耐え切れないとでも言うように一ノ瀬くんを強く抱き寄せた。
「……佐伯さん」
一ノ瀬くんに名前を呼ばれるけど、俺には言葉を返す余裕なんて無くて。頷きとも取れぬような曖昧な反応を一ノ瀬くんに示した。
すると一ノ瀬くんは、ふわりと頭に手を乗せて、そのまま優しく撫でてくれる。
「怖くないですか」
その声は、一ノ瀬くんの割には結構心配げで。
俺は何度、一ノ瀬くんに同じことを聞かれたのだろう。
もう心配はさせたくない。
迷惑も掛けたくない。
そう思って、大丈夫だと言おうとしたが、ふとその前に一ノ瀬くんの言葉が思い出される。
無理をする前に、全部言ってほしい。
それは、一ノ瀬くんが会社に来て間も無い頃に言われた言葉だった。
別に、今無理をしようとしている訳では無い。
ただ、一ノ瀬くんを受け入れようと必死なだけ。
それでも、完全に怖くないのか、と言われれば全然そんなことはなくて。勿論、恐怖心はちゃんとある。
だけど、そうやって俺が無理をすることまで一ノ瀬くんに心配されたら、俺は何も進歩できないのではないだろうか。
怖いから、一ノ瀬くんに我慢をさせる。
そんなことでは、俺は一生、一ノ瀬くんに慣れることはないと思うから。
「怖い……」
これが、心の隅にある本心。
でも、俺は頑張る。頑張りたいんだ。
「…けど……」
おもむろに顔を上げ、俺はしっかりと一ノ瀬くんの目を見詰める。空いた両の手のひらは、そっと一ノ瀬くんの頬へと添えた。
一ノ瀬くんは少し、不思議がった表情だ。
「大丈夫です……!頑張れるって言ったのは、俺ですから……っ」
しっかりと自分の意思を伝える為、大きな声を出したつもりなのに、震えて力が入らなかった。
それからしばらく俺を見ていた一ノ瀬くんだが、その後で困ったように笑う。そして俺の手を引き離すと、その腕を自分の方へ引いて俺を抱き寄せた。
「そんな泣きそうな顔で言われたら、佐伯さんに無理をさせようとは思えませんよ」
だけど一ノ瀬くんは、いつも通り優しくて。
そうやって甘やかされたら、俺だって無理してこんなことはしたくない。
したくないけど、きっと俺には、一ノ瀬くん程の努力が足りていないのだろう。
だから、これだけは一ノ瀬くんの願いであっても譲れない。
「…ぁ、無理じゃ、ない…っ……」
下半身へと伸びていた指は離され、その代わりと言ってはなんだが、一ノ瀬くんの手のひらに後頭部を包まれる。
そして、ポンポンと頭を何度か撫でられた。
「強がりますね」
そう言って、一ノ瀬くんは笑うのだった。
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