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近くで一ノ瀬くんの短い笑い声が聞こえてきてから、じゃあ、と一ノ瀬くんに言葉を掛けられる。
俺は何に対しての否定なのかも分からずに、ただ首を横に振っていた。一ノ瀬くんの肩に頭を乗せ、呼吸を落ち着かせようと酸素を吸い込む。
「……佐伯さんがもし、怖いとか、苦しいとか、辛いとか、そう思ったら、俺の名前を呼んでください」
「え…?」
その訳の分からないお願いに、俺は間抜けな返事しかできなかった。
なぜそんな遠回しなことをしなければならないのだろうか。なぜ一ノ瀬くんの名前を呼ばなければならないのだろうか。
そう思うと、当然意味を理解できていないうちは、分かったなどとは頷けなくて。
それからは何の反応も返せず、俺はゆっくりと一ノ瀬くんへ視線を向けた。
「…名前を呼ばなかったら、いくら怖いだとか言われても、佐伯さんの気持ちは汲み取りませんからね」
一ノ瀬くんはにこりと笑う。
そんな意地の悪いことをいうなんて、珍しいと思った。
(どうして……)
しかし、俺が何かを言って反抗する前に、一ノ瀬くんは俺の耳に唇を寄せる。
「分かりましたか」
「ひ、ぁ…っ!」
耳元で囁かれたかと思った、その瞬間。
さっきまで抜かれていた指は、また同じところに押し込まれて。
俺は一度身体をビクリと反応させ、少し仰け反ったが、突然襲ってきた刺激にすぐ一ノ瀬くんへとしがみついた。
「ぁ、やだっ…や……!」
しかもその指は、ずっと一点のみを攻めてくる。
俺は急なことに頭を混乱させて、一ノ瀬くんに抱き付きながら泣き喚いた。
「…っ嫌だ……ぁ…っ」
「違うでしょう?」
「あぁ……!」
その優しい声色とは裏腹に、一ノ瀬くんはそれ以上の刺衝を俺に与えた。
「…佐伯さん、頑張れるって言いましたからね」
「でもっ…これは、ぁ……!」
こんなのは、違う。
話し方はいつもと変わらないのに、行為だけが次第に激しくなって。
頑張るも何も、その刺激に全てが押し潰される。
とてもじゃないが、自力でこれに耐えるなんて到底無理だった。
「怖いですっ……一ノ瀬、く……!」
そう訴えても、一ノ瀬くんが止めてくれる気配は全く無い。
嫌だ。怖い。
俺がそんなふうに思うようなことをしているのに、一ノ瀬くんは声色も俺への触れ方も優しい。
それが逆に俺を困惑させた。
「そんなんじゃ、駄目ですよ」
「えっ……?」
「名前」
一ノ瀬くんは即座に言葉を返した。
あぁ、そうだった。名前を呼ばないと駄目なんだった。
あまりの衝撃にそれを脳内から追いやってしまったから、今更そんなことに気付く。
一ノ瀬くんは、名前を呼ばない限りは永遠とこうやって続けてきそうだったから、俺はそうするしかない。
だから、息も絶え絶えに、何とか声を振り絞った。
「…一、ノ瀬く…っ」
だけど、それでも一ノ瀬くんの動きは全く変わらない。
「駄目」
そう言われるだけだった。
どうして、と疑問ばかりが脳内を占める。
「っ…一ノ瀬くん……!」
「駄目。下の名前でお願いします」
「は、ぁ…なっ、で……?」
言っても、一ノ瀬くんは何も答えてくれない。
つまりは、本当に下の名前で呼ばないと止めてくれないということで。
遥斗、なんて名前は呼んだこともないから恥ずかしかったけど、今はそんなことを気にしてはいられなかった。
「はっ…遥斗、くん……っ?」
「駄目。声が小さいです」
「遥斗くん……!」
「駄目」
「…遥、斗くんっ…」
「もう1回」
だけど、一ノ瀬くんはなかなか許しをくれない。
声が小さいと言われても、こんな状況では安定した声など出せないに決まっている。
一ノ瀬くんは、それを分かっていて、わざと俺に言っているのだろうか。
それに、突然下の名前で呼んでなんて、そんなのは今更のことだから恥ずかしい。
それでも、俺は何とかしてこの快楽から脱げ出したくて、必死に声を上げた。そうじゃないと、本格的に気が可笑しくなる。
「…っ遥斗くん!」
襲ってくる全ての感覚を一瞬だけ我慢し、俺は泣き叫ぶかのように大きな声を出した。
思っていたよりもその声は大きくて、咄嗟に一ノ瀬くんの肩に顔を隠す。
一ノ瀬くんは、小さく笑ったような気がした。
「…よく出来ました」
一ノ瀬くんが言う言葉も、頭を撫でる手のひらも、全部があの日と変わらない。
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