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④
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その日から、一ノ瀬くんは掛かってくる電話に出ることが多くなった。それも、話を聞かれたくないのか何なのか、絶対に俺の前で出ることはない。
(なんで……)
しかし、その訳を問いただす勇気が俺にあるはずもなく、ただ日常だけが過ぎてゆく。
それに。
(……ほら)
戻って来る一ノ瀬くんは、少し疲れたような表情をしているんだ。
初めは浮気かな、とか思ったりもしたけど、全然そんな雰囲気じゃない。もっと、暗くて沈んだような。
「……すみません」
さっきも夕食を食べる直前に外へ出たから、俺は一ノ瀬くんが戻ってくるまで食べずに待っていた。
今回の電話の時間は、いつもより少し長くて。
俺は一ノ瀬くんが戻っても俯いていた。
「食べてなかったんですか」
「………」
一切手の付けられていないテーブルの上の料理を見て一ノ瀬くんが問い掛けるが、俺は何も言葉を返さない。
意地を張っているのか、拗ねているのか、自分でもよく分からないんだけど。
「……ごめんなさい」
一ノ瀬くんは俺の隣にしゃがみ込み、頭に手を置いてくる。顔を覗こうと首を傾けるから、俺は反対側を向いてやった。
「怒ってます?」
電話をしていることは別に一ノ瀬くんの事情だから、とやかく言う気はない。ただ、何も言ってくれないのが悔しいんだ。
たとえそれが一ノ瀬くんの気遣いだとしても、俺はそんなに頼りないのかと思ってしまう。
「別に怒ってませんから、早く離れてください」
そう言って一ノ瀬くんの手を退けると、一ノ瀬くんは少し困ったように笑ってから立ち上がった。
こんな対応をしても、やっぱり一ノ瀬くんは何も話してはくれないのか。
謝られたい訳じゃないのに。
(なんだよ……)
▽ ▽ ▽
一ノ瀬くんに背を向け、布団に入る。
あの日、泊まるのは1ヶ月だけと約束してから20日以上が経過した。
色々している間に、季節はもう12月になり、冬だ。
寒い。
残り10日。
一ノ瀬くんのことを何も知らないままでここを去りたくはなかった。
秘密事を抱えられているのは、俺だって寂しい。
こうやって背を向けて眠るのも寂しい。
(寂しいだろ……)
俺は、ぎゅっと膝を抱えて丸まった。
今日は何だか、ベッドが冷たい。
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