アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
人の形をした、所有物 ※
-
「いいか、絶対に逆らうな。愛想を良くしろ。お前は感情に乏しくて、いつも決め手に欠けると言われているんだ」
「…」
俺はこくり、と頷き主人を見た。
ただ、愛想を良くしろと言われても、どうやればいいのか分からない。
「ああ、それと、今日はお前の『味見』もしたいそうだ。身なりを整えろ。風呂へ入ってこい」
「…」
ここは闇を抱える場所。人の売買が行われる陰の市場。俺に親は居たはず。でも、記憶にない。物心つく前に死んでしまって、それからは親戚をたらい回しにされ、挙げ句の果てにこんな場所に売られてしまった。
逃げようとしたこともある。でも、そうすると手酷い折檻を受ける。鞭で打たれたり、棒で殴られたり、火掻き棒を身体に押し付けられたこともある。
逆らうことも、逃げることも叶わず、客の機嫌を損ねると何日も食事を抜かれ、寒い場所に放置される。
そんな生活を続けていたら、いつしか俺は、自分で自分を管理するのを辞めていた。
言われたことを忠実にこなす自分は、自分じゃない。勝手に動かされている人形と同じ。
そうしないと、心を保つことができない。
精神的におかしくなったら、廃棄されてしまう。死ぬのは怖い。だから、今日も俺はお人形さんになるだけ。でも…感情を表に出すことだけは、上手くできなくて…よく客に「つまらない」と評され、買われることはない。
それは、幸せなんだろうか。不幸なんだろうか。
「ほら、もっと口を大きく開けろ」
「う…、ぁ、が…ぐ…」
俺の咥内を屹立したものが穿つ。不快で気持ち悪い。その行為も、匂いも、髪を強く引っ張られる感覚も嫌だ。
「こっちにも集中しろよ!」
「んぐ!ぁ、あぅ!…っ!」
後孔を貫いていた人物が尻を叩く。反射的に締めると、「この淫乱が」と心ない言葉でなじられた。痛みと熱で生理的な涙が溢れてくる。他の手は俺の昂りや乳首を痛いほどに擦ってきて、気持ちよさなんて欠片もない。それでも萎えないのは、行為の前に飲まされた薬のせいだろう。
なんて、汚い。
こんな薄汚れた人形を、誰が欲しがるというんだ。
早く終わらないだろうかと、今にも擦りきれて壊れそうな頭でぼんやり考えていると、突然扉が開いた。
「……おい、貴様ら」
「ああー? なんだてめぇ、こいつは今俺たちが味見してんだよ。順番待ってろや」
「……」
下卑た笑いを浮かべる男たちへと、カツカツと高らかに靴を鳴らしながら近づいてきたのは、長身の男性だった。逆行で容姿はよく分からない。次はこの人の相手をするのか…と気が滅入る。
「がっ……!」
突然、俺をなぶっていた男が一人吹き飛んだ。
呆気にとられて見ていると、さらにもう一人吹き飛んだ。どうやら蹴りあげられたようだ。
すると、今度は別の声が扉の奥から聞こえてきた。あれは、主人か。
「だ、旦那~!やめてくださいよ!お客さんに手を出さんでください!」
「黙れ。俺を誰だと思っている。なぜこいつらに指図されねばならんのだ」
「いやいやそう言われましても…」
「おいこら!こいつは何なんだ!」
俺の咥内を穿っていた人物が立ち上がり、殴りかかる。しかしその人はそれを避け、足をかけて転ばせる。それどころか、転んだ男の頭を踏みつけ、蔑んだ目を向ける。
「学の無い貴様に教えてやろう。俺はヴィーデナー家の当主だ。ここ一帯を取り仕切るギルドの頭くらい、顔を覚えておけ。愚か者」
「ちょ、旦那、それくらいに……」
「いくらだ」
「は?」
「こいつはいくらで買われることになっていた」
「あ、ああ、そいつですか?ええと、」
「まぁいい。その3倍出してやろう。こいつは買い上げる」
「お、お買い上げなさるんで?!」
主人の言葉を無視し、男は俺のそばへと歩み寄る。そして、壁際に追いやられる。
…何、この状況…。
「お前の名前は」
「……」
驚き、硬直する俺の顔の横を、拳が通りすぎた。壁が抉れるのではないのかというほどの、大きな音がした。
「俺の言葉には、3秒以内で答えろ」
「……っ」
「もう一度だけ聞いてやろう。お前の名前は」
「…っ、に、ニィノ……」
「そう、それでいい」
男はにやりと微笑むと、俺を壁に押し付けてきた。息が無理矢理押し出された。苦しい。
「お前は今日から俺の所有物だ」
これは、俺と彼の、歪んだ関係のお話。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 10