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無理強い
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「旅人よ、ようこそ参られた」
「あー……うん、よろしく」
昨日の今日で、西のオウサマに呼び出されてる。今日は一日のんびり過ごすつもりだったが、オウサマの命令は絶対との事で。
「オウサマは随分暇なんだな」
「いや?お前のためならいくらでも時間を作る。旅人よ、名はなんと言う?」
「相手に尋ねるときは、自分からだろ」
フッ、とオウサマが笑って、自己紹介を始める。聞いているふりをしながら、出された紅茶と茶菓子はそっと遠ざけさせてもらった。
「フィニデル=リストリア」
「トーマ。姓は別にいいだろ」
「ふむ……?姓を名乗りたくない理由があるのか?」
「旅人にあれこれ詮索するのはよろしくないんだけど。俺の場合は、姓に縛られるのが嫌なだけだ」
アティフィカーの一族は、知る人ぞ知る一族らしく、時にその身を狙われる。男に限らず、女も優秀な義肢の一族だから、政略結婚の話もあった。義肢は職人身分の中でも稀少で、一家に一代出るか出ないか。勿論俺も例外ではない。義肢であることを隠しては無いが、一族ってことがばれたら厄介極まりない。この国より前に何度かそんな目に遭っている。
「トーマ……と呼んでも?」
「旅人よりは」
「俺はフィニ……とでも呼んでくれ」
「わかった、フィニデル陛下」
「貴様……フィニと呼べ」
「悪いけど、旅人に無理強いはオススメしない。いくらオウサマでも、旅人を縛る事はできない」
その点では、東のオウサマは親しみがあったな。無理強いはしなかったし、いささか子供っぽい面はあったものの、旅人である俺に強いる事は少なかった。
「親しい者は、俺をフィニと呼ぶ。トーマにも、そう呼んでもらいたい」
「わかったよ、フィニ。これでいいだろ」
「充分だ」
満足そうに笑って、フィニが紅茶を啜る。嗚呼、疲れた。
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