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それならばそれで。
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雅の気持ちも、言ってる意味もちゃんと分かってるけど、俺にもどうしても譲れない気持ちがある。渓史さんの本当の幸せを願う気持ちは譲れなかった。
なのに、
「僕が谷原先生に言う。」
そう雅は言った。こんなところは兄弟らしく似ていて、雅も雅で頑固だったりする。
だからってそんな事を許すわけもないけど。
「絶対にダメ。そんな事したらいくら雅でも許さないよ。」
「でも!」
「これは雅には関係ない事だ!」
心配して会いに来てくれた弟に、俺はなんて言葉を突きつけるんだろう。
分かってる。
全部分かってるのに、
何も上手くいかないんだ。
傷付いたような顔をする雅に俺は何を言うことも出来なくて、口を開けても息さえ溢れてこない。
隣に座る空も、俺の声に驚いた顔をしてた。
その時だった。
家のチャイムが鳴ったのは。
「ごめん…ちょっと待ってて」
そう言って席を立ち玄関に向かう。
珍しく今日は、来客が多い。
いや、今度こそ何かの勧誘かな。
「はい」
俺は雅に注意された事も忘れて扉を開けた。
その先に立っていた人を見て本日二度目の驚きだ。
「やぁ、こんにちは。空くんの風邪どう?」
「え…あ、桜庭さん…」
どうしてまた、園長先生が…
「あれ、来客中?」
玄関にある靴を見て彼は言う。
「えぇ…あの、何かありましたか…?」
一昨日来た時に忘れ物をしただろうか。今日また来ると言う話は聞いていない。明日はまた保育園で会うのだし…
「何もないけど、あるとするなら僕が君の顔を見たかったってとこかな?」
「桜庭さん、すいません、今は…」
とにかく一度帰ってもらおうとしたところで、空が声を聞きつけたのか「えんちょーせんせーだ!」とかけてきた。その後には雅もついてきて、こんな狭い空間に全員が集合している。
「園長先生って、ソラ君の保育園の?」
「あ…うん、そう。あの、雅…」
「えんちょーせんせー!きょうもいっしょにあそぶ?」
「うーん、そのつもりだったけど、お客さんが来てるみたいだから僕は帰ろうかな。これ、そこのケーキ屋さんで買ってきたんだ。良かったら食べて。」
「え、ちょっ、桜庭さん!」
俺の引き止めも虚しくケーキを置いて帰ってしまう。さっきは帰ってもらうつもりだったのに、状況が変わるとそのまま帰られては困るのだ。
渡されたケーキの箱を見つめたまま途方に暮れていると、ソラが「えんちょーせんせーかえっちゃった?ケーキたべる?」と見事に子どもらしい発言をする。
雅は俺を見て、ケーキを見て、また俺を見る。
そして少しだけ目を細めてから、「そういうことなの?」と言った。
間違いなく雅が思っているようなそういうことではないけれど、雅がそう勘違いしたのなら、それでもいいかなとも思う。
いいとばっちりなのはきっと、桜庭さんだろうな。
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