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混乱
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「こだわり」と渓史さんに言われて、まるで俺だけがΩである事に固執してるみたいでつい声を荒げてしまった。俺がそんな事を気にするようになったのは、俺自身のせいだっただろうか。
もう、ずっとそう生きてきたから分からない。
けど、渓史さんにそう言われて傷付く自分がいる。何を傷付く必要があるのか。
俺には分からない。
「かいくん…どうしたの?」
俺が大きな声を出したせいで、空が心配して寄ってきた。俺は笑って「ごめん、なんでもないよ」って頭を撫でた。空の心配そうな顔は晴れなかったけど、でも俺は微笑むしかない。
「もう少しお絵描きしてて?」
「…うん」
空がまた机に戻るのを見届けてから話に戻る。
「あの頃俺が…もしこんな事を渓史さんに言ってたら、未来は変わったと思いますか?」
「…まぁ、少なからず何かは変わっただろうね。どちらかというとその本音の内容がどうであるかというよりは、本音を言えるっていう事自体に意味があるんじゃないかな。あの時おまえが俺にもっと素直になれていれば、違った未来があったと思う。おまえをもっと自由にしてやれなかった俺の力不足だな。」
「そんな!力不足とか…そんな事はないです。」
むしろ誰よりも俺の力になった。渓史さんが好きだという事は、その先1人で生きていこうと決めた俺にはそれが全ての原動力だった。愛して、愛されたから、1人で生きていけると思った。
「おまえを結果的に1人にしてしまった事は、俺の落ち度だよ。例え周りがそう思わなくても、俺は俺自身を許せなかった。だから…次こそはおまえの力になりたいんだよ。」
そう言う渓史さんの顔はとても真剣で、真剣だから切なくて悲しい。渓史さんは俺を好きだったのだろうけど、今はもう好きじゃないのかな。あの頃やり残した罪悪感を消したい。そんな気持ちなだけかも知れない。
次こそはおまえの力にって渓史さんは言ったけど、
俺の「次」って、何?
そんなもの、俺にはないのに。
ずっとずっと、渓史さんだけなのに。
渓史さんには次があるの?
そう思うと悲しいのに、
それを望んでるのは、
俺なんだ。
俺の中で色んな事がぐるぐるとしていて分からない。俺は今渓史さんになんて言えばいい?
俺は…どうしたらいい?
そんな混乱の中で、何も言えないまま渓史さんの目を見ることさえ出来ずにいると、不意に部屋の呼び鈴が鳴った。
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