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レッテル
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本鈴が鳴ってすぐに谷原が教室に入って来た。なんか今更気づいたけど、谷原を見る女子の目がキラキラしてる。モテモテくんかよ。
「面倒くさいから出欠は取らないぞー。サボってる奴いないなー?」
「いませーん」
誰だか分からないけど、女子がきゃっきゃっとしながら答えてた。アイツ今面倒くさいって言ったけど、そんなのの何が良いの?女子たちよ。
「早速授業始めるぞー。化学反応式の問題なー。去年やってる筈の所をまず復習するからなー。つうことで、海斗、手始めに化学式を全部書こうか。」
「……はぁ?なんで俺…」
「書けないの?習わなかった?スイヘーリーベーボクノフネってやつ。」
「知ってるよ!」
つうか海斗ってなんだよ!名前で呼ぶんじゃねーよ!ムカつくけど、書けないと思われるのも癪だから俺は前に出て黒板にご丁寧に枠まで付けて書いてやった。俺がスラスラと書く横で腕組みをしてジッとこっちを見てる谷原なんて無視だ。言っておくけど、俺は谷原を惚れさせて捨ててやるのが目的だけど、だからって谷原からこういう接触をされるのは嬉しくない。チャンスでもなんでもないよ。こんなの、俺にただ嫌がらせをしてるだけじゃん。
「意外とちゃんと書けるんだ。」
「だから知ってるって言った。」
不貞腐れた顔で言い返したら、谷原が近づいて来て頭を撫でて顔を寄せてきた。はっ!?と思ったら耳元で囁かれた。
「敬語忘れた?それと、そんな可愛い顔したらチューすんぞ。」
「……はぁ!?」
コイツ馬鹿なんじゃないの!?てか馬鹿だよね!!なんかもう馬鹿だわ!!こうやって雅をたぶらかしたのかと思うとイライラが止まりませんけど!!むしろ別れて正解だったんじゃない!?振られたって言ってたけど、一層振られてやった!位の気持ちでいた方がいいよね!?それにだな!そういう行動を取られると色めき立ってたお嬢さん方からとんでもない非難の目を浴びるわけなんだよ!見てみろ!
…ほーら、おっそろしー顔してるじゃーん…
なんでこういう目を向けられちゃうか知ってる?俺がΩだからなんだよ?雅はαだったから周りも手出しはしなかったし、結局は同性同士だし?何が出来るってわけじゃないじゃん。それでもパートナーにはなれるけど、子供を産める産めないは結構大きいんだよ?俺は同性だけど谷原の子を産めるもん。絶対やだけど。でもそんな俺の気持ちとは裏腹に、こういう事実だけを見たらさ、お嬢さん方は面白くないんだよ。
「もう良いでしょ。書いたんだし、間違ってないですよね?」
「うん、正解。」
どんなもんだ!谷原は俺を見くびってるだろうけど、実は俺、学年一の秀才だからね!やっぱりΩだもんね、なんて言われたくないからね!!
その後の授業はこれまた淡々と進んでいって、あれ以降谷原が俺に構う事はなかった。嫌がらせにしてはぬるいよね。
チャイムが鳴って谷原が教室から出て行ったら、見計らった様に女子たちが群がってきた。
もうね、何を言われるか大体分かってますよ。
「ちょっと、話があんだけど。」
「…なんでしょうか。」
「ついて来て。」
「…断る権利は?」
「はぁ?」
あるわけないですよねー。
大人しくついて行く俺ってなんなんでしょ。結局は女子には弱いって事なんですかね。
ついて行って辿り着いたのはまだ少し肌寒い屋上。人気がない場所第2位って感じだね。1位は校舎裏だよ。でも放課後とかじゃないと、行くには距離があるもんね。靴も履き替えなきゃだし。ナイスチョイスだよ、お嬢さん方!
「あんたさぁ、雅くんのお兄ちゃんでしょ?まさか、谷原先生があんたに乗り換えたなんて事じゃないわよね?」
「まさか。ないない。」
「じゃあさっきのは何?あの時何を言われたの?」
「えー…あの、敬語を話せって注意されました…」
「嘘つかないで。そんな事をわざわざ耳打ちするわけないでしょ!聞かれたくない事があったからじゃないの!?」
いや、まぁ確かに変な事は言ってたよ!チューすんぞとか言ってたけど!今それ言ったら怖い事しかないじゃんか!言えるわけないんだよね!
「…何も。さっきも注意しただろ?的な事しか…あとはそ、そういう顔をするなって…事かな?」
「そういう顔?」
「た、多分ふてくされてたから!態度に出すなって事だと思うけど!」
「本当に?本当にそれだけ?」
「…はい」
「…なんか信じられないんだけど、まぁ今回はそういう事にしといてあげる。でももう調子に乗らないでよね。どうせあんた、Ωなんだから。」
ほーらね、こういう事言われるじゃん。流石の俺だってさ、こんな事言われたら鼻がツーンってなるよ。俺がいつ調子に乗ったって言うんだ。何もしてないじゃん。Ωだってだけでこんな風に言われなきゃならないなんて、本当にくだらない世の中。例え俺が学年一の秀才でも、Ωなだけでそんなの見てくれもしないんだよ。それなら頑張る意味ないじゃんって思う?でもそうじゃないんだ。学年一の秀才っていうレッテルは、周りの皆に思い知らせる為に貼ってるわけじゃない。どうせΩなんだからとか、こんな事を言ってきてるけど、俺の方が頭いいもんね!っていう、ただの痩せ我慢。劣等生と言われても、本当はちゃんと出来るんだって事を自分の自信にしたいだけ。だからそう言われても、傷付く必要なんかないんだよって、思いたいだけだ。
言いたい事だけ言って去って行った女子たち。まだ名前も覚えてないけれど、向こうは俺がΩだって事、しっかり認知してる。それがこの世の中の風潮。
だからしょうがないなんて…思いたくないけど…
「…次の授業…サボっちゃおうかなぁ…」
なんていう気持ちになっちゃったりはするよね。
「ダメだろ。」
「うわっ、びっくりした!」
急に上から声がした。ここ、屋上なのになんで上から?って思ったら、入り口の上って登れる様になってるのね。なんでだろ?そこから顔を覗かせてたのはまさかまさかの谷原で。
…じゃあ今までの下り、全部聞いてたの?
「担任としてサボりを推奨出来ません。」
「…冗談だよ。サボったりしたらまた言われるだろ。」
「何を?」
「…Ωだからなって。」
「Ωじゃなくてもサボるだろ。」
「そんな事実、俺には通じないんだよ。αのあんたには分かんない!」
なんなのこいつ、めんどくさい!
俺はさっさと屋上から出て行こうとしたら、いつの間にか上から降りてきていた谷原に引き止められた。
「悪かったよ。」
「…別にいい。こんなの、いつもの事だし。だけど!あれはもうやめろよな!あんなんで皆に勘違いされて呼び出されるとかめんどくさいんだから!」
「それはおまえ次第だよ。何を企んでるか知らないけど、おまえがやめない限り、俺もやめないよ?」
何か?じゃあやっぱりさっきのは嫌がらせだったって事か?んでもって、あういう事をすれば、俺が呼び出されて女子たちに因縁つけられるのも予想済みだったというわけ?
い、いけすかねー!!!
「絶対やめない!!」
「じゃあ俺もやめない。」
「あんたそれでも教師かよ!」
「それ、今関係ないよね?おまえは教師の俺に恨みがあるんじゃないだろ?雅の元彼の俺に恨みがあるんだろ?だったら俺も、教師じゃない俺としておまえに嫌がらせをしてやろうという話だよ。」
「…ちっ…うざい」
「口の利き方が治らんね。それは教師云々の前に目上の人への態度の問題だ。」
「あんたの事なんか目上だなんて思いたくないし、目上っつうより、目の上のたんこぶだ!邪魔くさくてしょうがない!」
「おまえから突っかかって来たんだろう?俺は受けて立ってるだけだ。…でも、まぁ、そうだな。大人として譲歩してやらんでもない。」
「…なに?」
「おまえが何を企んでるか、教えたら手を緩めてやろうか。」
「…なにそれ…ムカつく」
ムカつくけど、もうこんな事になるのはごめんだ。こいつのせいで、傷付けられるなんて釈然としない。むしろ俺が傷付けてやる筈だったのに。
あぁ…思い出しただけでまた鼻がツーンとする。
喉もちょっと、痛い。
「どうすんだ?おまえ次第だぞ、海斗」
「名前…呼ぶな。」
「はぁ…いちいち…」
「惚れさせる事…」
「は?」
「俺に、あんたを惚れさせてすっぱりさっぱり綺麗にズバッと捨ててやるのが俺の理想!だからっ、早く俺に惚れろよ馬鹿!」
言ってやったー!言ってしまったとは思いたくないー!
「ふーん…そういう事。なるほど、目には目をって事か。…面白い。その企み、俺も乗っかるわ。」
「はぁ?なに言って…」
「俺がおまえに惚れるか、おまえが俺に惚れるか、どっちが先か勝負しよう。一対一だ。今みたいに他を巻き込んだやり方はしない。いいだろ?」
「…わけわかんない。大体あんたが勝ったとしても、あんたに何のメリットがあんの?」
「…それはおまえが知る必要はない。」
「本当に意味わかんない。」
「でもこれはおまえにとってもチャンスだろ?お互いがそういう意思で歩み寄ろうってんなら、俺がおまえに惚れるチャンスだっていくらでもある。上手く使えばいいだけの話だ。」
言われてみれば、そうかも知んない。だって、俺がコイツに惚れるなんて万に一つもないんだし。
「…分かった。その話、受けようじゃん。」
「いいね、面白くなってきた。それにおまえ、可愛いとこあるな。俺にメリットがないとか、一応自分が負ける可能性も視野に入れてるわけだ。それとも、もうすでに惚れかけてたりする?」
「自惚れんな。そんなわけねーだろ。」
「ホンット、口の利き方が良くないね。雅を少し見習ったら?あの子はセックスしてたって綺麗な言葉を使ったよ。」
「セッ……!?」
なんて言葉を吐きやがるんでしょう!!てか考えたくない!俺の雅がすでにセ…セッ……!!経験者とか!!やだよ!ずっと処女のままでいて!!あ、ちょっと違うか。
「顔真っ赤。何?意外と初心なんだ?」
「し、知らない!」
「ふっ、知らないって何?知ってるだろ?セックスは未経験?じゃあ、キスは?」
「知らないってば!」
「知らない?キスを知らないって意味?」
「違ッ…」
わないよ。セッ……んんっは愚か、キスだってした事ない。あるわけないでしょ。Ωなのに。誰がこんな劣等生、好きになるのさ。最初から恋愛対象にだって、なりはしないもの。
矛盾してるよね。なのに、谷原を惚れさせるとか。
「可愛いな…それはわざと?惚れさせる為の演技?……なわけないか。演技でここまで赤くはならないな。」
「もういいだろ…次の授業はじまる!」
「サボるんじゃなかった?」
「だからそれは冗談…っ…んんっ!」
手慣れた男はさ、こういう事をするのも素早くて隙も無駄もないんだね。腰を引かれて頭を支えられて身動き一つ取れないんだから。唯一動く手で谷原の胸を押したけど全然ぴくりともしない。
「んっ…やっ!」
声を上げて開いた口の隙をついて、谷原の舌が捩込まれた。濡れて生暖かいそれが、俺の舌と絡んだ時、バチッという音が出たんじゃないかって位の電気が走って、谷原の舌が出て行った。
「な…に…?」
俺は息も絶え絶えに言ったけど、谷原は驚いた顔をしたまま俺を見るだけだ。
つうか…キスじゃん!!
ぐわぁっと羞恥心が込み上げてきて、なんか黙ってこっちを見ている谷原を力一杯押し除けた。今度は簡単に体が離れてくれたから、俺は急いで屋上を出て階段を駆け下りた。
気持ち悪いとかじゃないけど、なんかとにかくモヤモヤしてうずうずして…分からないけど、うわぁー!って叫びたい気持ちになって、袖で唇を拭いた。
まだ残る谷原の唇の感触を消したくて、擦り切れる位に拭いたけど、口の中に残る唾液と舌の感触、それからあいつのキスの味は消えてくれない。
「……にっが…」
あいつ、屋上でタバコなんか吸ってんじゃねーよ…
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