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「サーブ俺からでいい?」
「それでいい。さっさとうて」
リョウが頑張って立てたコートのネットを挟んで二人は相対していた。
そういえばこの二人の対決はあまり見ない。ふと審判を務めるリョウは思った。
いつもハルトがシュウの世話を焼く形で、必ずといってよいほど傍にいて支えている。
なのに今回はハルトが不純な動機とはいえ彼の敵にまわることを決めたのだ。意外だったというのが本音である。
「いくぞー」
ゆるい掛け声とともに、ぽすんっとサーブが飛んでくる。
それを容赦なく豪快なスマッシュで叩き伏せるハルト。
「うおおおお!」
シュウのすぐ横を轟音が駆け抜けていった。あまりの衝撃に思わず腰が抜けて勢いよく尻を床に強打してしまう。
ハルトの本気っぷりに、眺めていたサガラの口から棒付きキャンディーがポトリと落ちた。
「ほっ本気すぎだろ!」
「言っただろう。ひねりつぶすと」
正気の色を失った瞳が、シュウを貫く。初めて自分に向けられた敵意に、うっと喉を詰まらせた。
「せいぜい足掻け。そろそろ調子に乗るなと言いたかったところだ」
羽を片手でもてあそびながらハルトは言う。むっとその言葉に反感を覚えたシュウが、顔をひきつらせながら立ちあがった。
それを確認したハルトが、なめきったサーブを送る。
「えいっ!」
ぽこんっと気の抜けた音とともに打ち返す。ひょろひょろと戻ってきた羽を容赦なく叩き落とすハルト。
そのイジメと似ても似ぬ光景を眺めていたサガラが、何故か肩を震わせながら顔を覆った。すかさずユツキは背中をやさしく撫でる。
審判の意味がない、と理解したリョウは一生懸命足掻くシュウを憐れに満ちた相貌で見守っていた。
「うっうう!強すぎる…」
「いい加減諦めろ。往生際が悪いぞ」
「諦めるのだけは嫌だ!かの安西先生も諦めたらゲームセットだって言ってたんだぞ!」
「点差見てから言え」
そう言われスコアボードをみる。
10点先取のゲームだったはずだ。
ハルト9点。シュウ2点。
しかもシュウの2点は、憐れんだハルトの自滅点。彼が入れた点数は皆無だった。
「うぎゃーー!」
「ほら」
決定打がおくられた。
点差のショックにより数秒硬直していたシュウは、慌てて打ち返したがあたり損ねた上に、ハルトの頭上ピッタリの位置に返してしまった。
「あっ!」
「終了」
そしてハルトはまたも容赦なくたたき返したのだった。
「シュウにも容赦ねえな…」
こうしてバトミントン大会はおごそかに幕を閉じたのだった。
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