アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
フェスティバルエスケープ
-
リョウを放置してさっさと人がいないところに移動するハルトの後ろにシュウは続いていた。
「なあハルトーどこいくんだ?」
「…こんな暑苦しいところに長時間いれるか。涼しいところに行く」
うっとおしそうに首元の汗を拭うハルト。
シュウは納得したが、せっかく夏祭りに来ているのだ。ちょっとぐらいは喧騒を楽しみたい。
我儘だと理解しつつも服の裾を握って引きとめてみる。案の定ハルトは目を細めてシュウを睨みつけてきた。
「なんだ引っ張るな」
「なーハルト。おれ、綿あめ食いたい!」
「自分で買ってこい。おれは帰る」
無愛想な声音に、シュウは少し戸惑った視線を送った。
「え、帰るの?来たばっかじゃん」
「来てみたら余計に帰りたくなった。なんの需要もないだろ」
不機嫌さを隠そうともしないハルトを、シュウは黙って見つめた。
目つきはいつも以上に鋭く、せっかくの端正な顔立ちが強面になってしまっている。
ハルトの機嫌が悪いことは何んとなく察せられる。この幼馴染は不快なことがあると無意識に瞬きが多くなるのだ。
ヒナトとの勉強会が始まってから、様子が少しおかしく感じていた。
どこかよそよそしいというか、シュウの顔を見ると切なそうに顔をゆがめる。
感情を表に出さないハルトにここまでさせてしまうような失敗をしてしまったのか、考えてみたが特に思い当たらない。
「………なんなんだよ」
自分を見たら逃げるようにその場を去るハルトに、自分でも気付かないうちに不満や苛立ちをため込んでいたシュウは知らないうちに低い声を出していた。
ハルトは足を止め、シュウのほうを窺う。いつも能天気な笑顔しか浮かべていない幼馴染の表情には、負の感情が混ざり合っていた。
「最近のハルト、おかしいぞ。俺が近づいたら離れるし、話しかけようとしたら逃げるし!何だよ、何かしたなら黙ってないで言ってよ!」
堪えてきた激情を吐き出した後、我に戻ったシュウがハルトに恐る恐る目をやると、怖いほど無表情で自分をじっと見つめていた。
普段ならかすかながらも色がついているのに、今日はどうも生気すら感じさせない死人の双眸に、シュウは無意識のうちにあとざすっていた。
「………わかったら苦労しない」
「え?」
「………悪い。また今度来るから、今日は帰らせてくれないか」
意味深な呟きを置き、今度こそ振り返らずに暗闇に消えていく。
妙な後味の悪さを飲み込み、シュウは茫然とハルトを飲み込んだ闇を見つめていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
59 / 106