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「別れる?」
倉持洋一が告げた言葉に、御幸一也は、眼鏡の奥の眼を一瞬、見開いたものの、すぐにいつものクールな(見る人によっては人を喰ったようにも見える)表情に戻り、唇の端に笑みを浮かべる。
「何、下らねぇコト言ってんだよ。オレは、1ヶ月の遠征から やっと戻って来たんだぜ?」
高校を卒業してからドラフトで指名を受けた球団に入り、プロ野球選手として活躍する御幸である。
天才捕手と言われ、甲子園にも出場した彼だが、
しかし現在はバッティングと、肩の強さを買われ、
センターでスタメンを勝ち取っている。
「今はセンターだけどよ、キャッチャーは諦めてないからな。いつか絶対マスク被ってやる。
センターから配球とか予測してよ、ハマった時なんか思わずニヤついちまうぜ!」
以前、ベッドの中で御幸が語っていたのを倉持は
覚えている。そして、コイツならやるだろう、と
疑わずにいる。
一方、倉持は大学に進み、得意の俊足で大学リーグで鳴らしたものの、怪我もあり野球は諦めた。
今はスポーツ用品メーカーの営業として勤め、
たまにキャッチボールをする程度だ。
御幸と一緒に甲子園に行った過去は、思い出の中に埋もれてしまい、現実には何の役にも立っていない。
「だから今まで待っただろ。帰って来てメシを食ったし、風呂にも入ったし」
と、倉持が低い声で言う。
今、御幸はソファでワインを飲んでいる。
球団の先輩にでも吹き込まれたのか、通ぶって
蘊蓄と共にグラスを傾けている。
倉持はそのソファの端に座り、隣の御幸を意識しながら、顔は前を向いている。
2人が高校を卒業する頃、お互いをパートナーと
意識しあい一緒に暮らすようになった。
高校1年で出会ってから早や10年の時が流れた。
今では、そこそこ高級なマンションを御幸が購入し、相変わらず2人で住んでいる。
そして、今日、1ヶ月の遠征から帰って来た御幸に
倉持は別れ話を切り出した。
2人で夜を過ごす前に言わなくては、またズルズルと同じ事の繰り返しだ。
「別れようぜ、オレ達。オレが此処から出て行くから。今日で最後にしよう」
冷たいくらい、はっきり言わないと、御幸には通じない。
「本気か?」
言いながら横目で見てくる御幸の顔を見てしまった倉持は、思わずドキリ、と息を呑む。
……誘ってる……
「なあ、倉持……
1ヶ月も離ればなれだったんだぜ…?
淋しくなかったの?オレ、もう限界なんだけど…」
甘えるように煽るように、御幸がすり寄って来る。
ほろ酔い加減の目元が赤く、色っぽい。
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