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またいつもの漫才でもやっているのだろうと、特に気にせず素通りを決める。
が、
「しっかりしてるけど、秋月も何気に天然なところあるからね」
思いもかけず飛び出した自分の名前に足が止まった。
「もう忘れてるんじゃねーの?」
「井上じゃないからそれはないだろ。お前と一緒にしたら秋月がかわいそうだぞ?」
「渡辺が…あの優しいはずの渡辺が…哀れむような目で俺を見てくる…」
三年生はみんな声が大きいのだろうか。
それとも壁が薄いのだろうか。
扉は締められているものの、聞き耳を立てなくても誰が何を言っているのかはっきりと分かる。
「困らせたくない…」
低い、静かな緒方さんの声。
額にあてたペットボトルから伝った水滴が頬を滑った。
持ち直し、額から離す。
「いや、もう困らせてるのか…あの後も何人かに告白されたって噂は聞いたけど、彼女がいる感じじゃない…ですよね?」
「なんで敬語だ。あー、前にいないっつってたぞ。でもあれ五月の合宿の時だったか。まぁあの感じじゃ今もいないだろうな」
「あの感じってなに?!なんで秋月と山梨がそんな話ししてんの?!」
「話しの流れだ。んな不満そうな顔すんな。頬膨らますのやめろ」
「膨らましてませんー」
「いつも以上にパンパンに膨らんでたぞ」
「元々こういう顔ですー」
「あんこの詰まったヒーローかよ」
「おい、秋月の話はもういいのか?だったら明日も早いから寝るぞ」
「もうよくない!聞いて下さい部長!」
今すぐ立ち去ろうとも思ったが、なんとなく動けずにいた。
下手に音を立てて気付かれるのも嫌だし、誰かがここを通れば話しは筒抜けだ。
それだけはなんとしても阻止する必要がある。
それにこの部屋の中にいるのは三年生のみ。
まさか声がダダ漏れになっているとは思っていないだろうから、きっとみんな先輩という立場から解放されて、本音で話しをするだろう。
告白されたのが夢ではなかったのなら、やはりこのままという訳にもいかない。
この会話から緒方さんの本音が聞けたのなら、何かこの状況を打開する為のヒントのようなものを得られるかもしれない。
そう思った。
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