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心に棲む後悔/その後(大和と嵩原)
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木瀬と再会を果たした嵩原の一日は、超多忙。
連絡もせずに帰って来た親父を見た瞬間、組員達がどれ程それを喜んだ事か。
一気に本部の血気は上がり、直接相談や話がしたかった幹部達は、ひっきりなしに組長室を訪れる。
嵩原がいるといないでは、竜童会………いや、関西自体の空気も全く違う。
絶大な影響力を持つ嵩原がいれば、他所の組も瞬く間に大人しくなり、大きな騒ぎは起こさない。
皆、考えは一緒。
竜童会以前に、嵩原と揉め事は御免だ。
いるかいないかで、見事に治安も変わる。
だから、目一杯組員達の相手をして帰路についた時には、既に真夜中。
マンションのドアを開ける頃は、最早空に白さが増していた。
ガチャ………………
「ただいま………………て、寝てるか」
薄暗い廊下が、疲れた身体を迎える。
靴を脱ぐ足も、ズッシリ重い。
関西に帰ると、泊まらない限りはいつもこんな流れで一日が終わり、その疲労感は半端ない。
「ハァ……………」
無意識に溜め息だって出る。
それでも、右手には大切そうに握りしめられた紙袋。
地元にある有名和菓子屋の名が書かれたそれは、ここのどら焼きが大好きな大和への手土産だ。
老舗の餡がたっぷりのどら焼き。
どんなに多忙な一日でも、嵩原は毎回10個入りの箱を予約し、これだけは必ず買って帰る。
一個、300円。
昔なら2個買って、贅沢。
滅多に食べられるものではなかった。
それが、今では好きなだけ買ってやれる。
コンコン………………
「大和……………入るで?」
好きなだけ。
食べたいものも食べさせてやれなかった、昔。
「ん………親父ぃ………帰ったん?」
嵩原は、知っている。
忙しい自分に無理をさせまいと、小学校の弁当の日に、大和がこっそり菓子パンをランドセルへ詰めていた事。
「なんや……………起きてたんか」
最初は、何故かわからなかった。
でも、それの理由に気付いた時、笑顔で出て行く息子に目頭が熱くなった。
「だって、親父…………疲れて帰って来る思うて…………うとうとしてしもうたけど、待ってたかったんや」
「大和……………」
忘れない。
可愛い我が子を健気に踏ん張らせた情けない親と、そんな親を小さな力で支えてくれた立派な子の生きた日々。
「アホやな…………明日、学校やろ」
「へへ……………でも、顔見れたし………」
思わず抱き締める腕に、力が入る。
煌々と明かりの点いた部屋で、眠そうに目を擦る愛しい姿に胸が詰まる。
嵩原は、ベッドに横になっていた大和の脇へ腰を下ろし、思い切りその身体を抱き寄せた。
「木瀬さんと、いっぱい喋れた?」
「ああ、喋れたわ」
「ええなぁ、木瀬さん…………親父を独り占めやん」
「何言うとんな…………俺は、お前のもんや。お前以外、俺を独り占め出来る奴なんぞおらんわ」
「親父………………」
ポーッと赤くなる顔が、嵩原の心をグッと惹き付ける。
なんと可愛い子か。
自分の人生にこれほどの宝物が出来るとは、喧嘩に明け暮れた10代の時には想像すらしなかった。
見つめ合う瞳から、自然と溢れる微笑み。
それが、全てを語る。
かけがえのない大和の存在は、嵩原の生き様に大きな力を与えた。
「母さんの時も、木瀬さんの時も…………俺が俺を保てたんは、お前がおったからや。お前がおったから、俺は化け物で終わらずに済んだ…………自分がセーブ出来とんねん」
「あ…………親………んっ」
滑る指先が大和の肌を捉え、囁く唇が熱くなった耳朶をやんわり包む。
「大和、お前は俺の全てや……………」
優しい顔から、化け物の顔まで。
「んぁ………親………父…ぃ」
とろけるような震える声が、また嵩原を強くする。
「俺の…………全てなんやで………」
「ぁ………あ…っ」
最近、よくわかる。
自分の中に眠る化け物の気配が、大和と言う輝きによって理性を保てている。
自分を見失わずに済む、唯一無二の光。
常にトップ。
常にカリスマ。
周りを照らし続け、誰もが追い続ける嵩原を照らしたのは、奇しくも禁忌を犯し手に入れた我が子。
だからこそ、嵩原が大和を手放す事はない。
その魂が朽ち果てるまで、化け物は貪り続ける。
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