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男娼とヤクザ/シリーズ4(第19話)
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「……………大和、俺はお前が好きや」
湊の付けていた香水が、ほのかに二人を包む。
愛しさは変わらないのに、知ってしまった真実は、こんなにも苦しみを生む。
やっと手にした悦び。
嵩原にとっても、大和にとっても、互いに結び合えた想いは何にも変え難き大切なもの。
決して、手離したくはなかった。
「お前を失いとうない言うたら、お前は怒るか?」
「え……………」
ゆっくりと肌を滑る指先。
自分を見上げる大和の頬を、嵩原は硝子にでも触れるように優しく撫でた。
湊が残した気遣いと、大和が友を想う気持ち。
どちらも哀しい程に自らを犠牲にする。
愛する事の難しさ。
娼夫との愛か、禁断の愛へ踏み込むか。
「俺は、お前を失いとうない」
嵩原は、大和を取ろうとしていた。
「た…………嵩………」
「確かに、湊は大事な弟や………小さい時に別れて、ずっと苦労させて来た大事な弟。代わりなんぞ、勿論何処にもいねぇし、あいつの為やったら何でもしてやりたいと思うてる」
最後まで笑顔を貫いた湊が、脳裏を過らないわけじゃない。
一旦は掴んだ手も、嘘ではない。
あのまま帰したら、また弟に我慢をさせてしまうと思った。
でも…………。
「せやからこそ、その弟を一番に考えてくれたお前を、何よりも大切にしてぇ…………俺の大事なもんを大事にしてくれるお前を、愛してぇんや」
あれで、大和が自分を選ぶように言っていたら、自分は湊を追ったかもしれない。
それをしない大和が、やはり愛しかった。
「こないに好きになってしもうて、今更離れられるか……………無茶言うな」
「嵩原……………」
堪えきれず、抱きしめる身体に想いは注ぐ。
湊、すまん……………。
何度も何度も、頭の中で繰り返される謝罪。
次、湊とどんな顔をして会えば良いか、柄にもなく逃げ腰な兄としての怯え。
それでも、大和を失う方が嵩原には怖く感じてしまった。
「ひでぇ兄貴やの…………」
「…………原…ぁ」
苦笑いする眼差しが、視界を塞ぐ。
自分を選んでくれた筈なのに…………。
大和は、素直にこの選択を受け入れる事が出来ずに、戸惑っていた。
大好きな嵩原を悩ませる。
しかも、相手は大和も大切に思う、友人。
自分がいなかったら、大切な二人を悩ませずに済んだものを。
いつも、そうだ。
住む場所を探してる時も、母親の話の時も。
自分は苦しんだり悩んだりするばかりで、助けてくれたのは、周りにいる大切な人達だった。
結局、どれだけ強がっても、一人じゃ何も出来なかったじゃないか。
湊にだって、しょっちゅう助けられてた。
だから…………。
こんなろくでもない娼夫でも、少しくらいは人の役に立ちたい。
大和の心に、フッとそんな事が浮かんでしまった。
ドンッ………………!
胸を突いた手が、抱きしめられた身体を突き放す。
「やま…………」
「ごめん、嵩原………」
愛してもらえて、本当に幸せだった。
夢みたいな時間。
いや、所詮自分には夢なのだ。
「やっぱり、誰かを泣かせてまで奪えへん………」
愛してる。
それだけで、十分生きていける。
大和は、大きく息を吐き捨て嵩原を見据えた。
「湊を、一人にせんで」
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