アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
58
-
見つけた注射器のパッケージを、椿は覚束無い手つきで開け始める。
しかしなかなか上手くいかない。
それどころかシャワーを浴び終わった智が駆け寄って来てしまった。
芳しい香りが椿を煽る。
引き返してきていた波が一気に押し寄せてくるようだ。
「これをっ打つんです……っそしたら、俺、落ち着くから……っ」
「どうしてそんな……それ副作用すごいんだろう?」
「大丈夫ですっ、は……っ、土井さんを大事にしたいんです俺……っ」
「椿くん?」
緊急抑制剤は薬の副作用が弱い人でも、強い副作用に襲われる。
強い吐き気に頭痛。
高熱に魘されることになる。
けれど椿はそのリスクを背負ってでもこの発情期を止めたかった。
「はっ、刺せない……っ手が、震えて」
「そんなことしなくていい、いいよ椿くん」
震える椿の手に智の手が重なる。
しかし椿は首を左右に大きく振った。
「やだ……触らないで、土井さん……っ俺また何が何だか分からなくなっちゃうよ。もうあんまり分かってないんだよ。いやだ、いやだ……っ俺土井さんじゃなくてもよくなっちゃう。気持ちよければなんでもいいってそう思っちゃう。そんなのやだ。土井さんが、土井さんがいいのに!」
涙が出てくる。
こんな自分が情けなくて、こんな自分に生まれたことが憎らしくて。
嗚咽混じりに叫ぶ椿に、智は目を見開いた。
しかしふっと息を吐くと、椿の肩に手を置いて優しい声を出す。
「椿くん……大丈夫」
「え……?」
何が大丈夫?
両目からポロポロと涙をこぼす椿の顎に手を添えた智は、椿の顔を自分の顔に向き合わせる。
椿の視界に入るのは上気した智の顔と、湿ってゆるい曲線を描いている黒の髪の毛。
腰が震えて、心臓が縮こまった。
おまけに何も身につけていない智の裸体は、芸術品とでも言いたくなるほど艶めかしくて美しい。
思わず涙が止まってしまうほどだ。
「僕はオメガのフェロモンに誘発されないように抑制剤を常飲してるんだ。しかもかなり強めのヤツをね。だけど……ほら、触って」
抑制剤?
そういえば、アルファがオメガに惑わされないようにってアルファにもヒートを抑える薬があるんだっけ。
智が椿の手をとると、自分の股間の方に持っていった。
椿の手に触れるのは熱く硬くなって、反り返っている智のソレだった。
「……っ、熱い……」
「普通のオメガならこうはならないよ。君だから。」
「お、れ?」
「そう。椿くんの発作が強いのも僕のせい。僕と君の相性が良すぎるせい。何も気にする事はないんだ。だから注射から手を離して?」
「土井、さん」
智が注射器を握りしめていた椿の手に触れる。
椿がゆっくりと手の力を抜くと、手からは注射器が落ちていった。
「楽にしてあげる。抱いて欲しいんだろ椿くん。いいって、僕ちゃんと聞いたからね?」
「あ、……あぁ……っ」
「もう我慢出来ないんだ。あんなに可愛いんだね椿くん。我慢しなくていいよ椿くんも。僕を存分に誘って?」
「土井、さん」
「智、僕の名前はさとしだよ。椿くん」
「智さん……っ」
二人の鼻腔に届く匂いが一層強くなる。
智は無理やり椿を立たせると、そのまま唇を押しつけながらベッドに戻した。
息が苦しいほどのキス。
上がる体温。
迫る波。
白く弾ける脳内を感じながら、ひんやりするベッドに倒れ込んだ椿は濡れそぼったそこに手を這わせながら足を開いた。
「智さん、俺、智さんが大好きです。」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
58 / 131