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姫
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「大和…………………………『寂しい』って、何や」
お父ちゃん、ショック。
「え…………………………」
大和は、フッと漏らした言葉に急いで口を閉じた。
ヤバい、要らん事言うてしもうた…………………。
自分を見つめる、哀しい瞳。
滅茶苦茶、愛されてる。
滅茶苦茶、愛してくれてる。
それがわかっているのに、『寂しい』。
……………………………やっちまったな。
生まれた時からずっと……………恋人になってからは、もっと……………最上の愛を注いでくれてる人を前に、不用意なマイナス発言。
放送事故である。
「ごめ………………………違うねん。違うねん、親父」
違うねん。
何が、だ。
でも、とりあえずそう否定するしかない。
「俺の愛……………………足りひんか?」
それを言う父親のヘコみよう。
尋常じゃない。
たった一言で、こんなに落ちるとは思ってもいなかった。
俺の愛、足りひんか?
充分、足りてます。
て言うか、足り過ぎて、これ以上の激しさは死にます。
特に、夜。
…………………なんて、思ってる場合じゃない。
大和の面前で、父親の視線はどんどん下がってる。
「おっ…………………親父……………」
大和は目を伏せる父親を見上げ、何とか上手い言葉が出ないか、考えを張り巡らせた。
でも、慌てる大和の頭脳よりも早く、父親は息子の身体に抱き付き、そのイケてる顔を肩へ埋める。
「…………………………俺、もっと頑張るし」
愛する人が、『寂しい』。
………………………何でや。
いっぱい、いっぱい、いっぱい愛してるのに。
こうしている時も、胸はドキドキで、大和の側にいられるだけでテンションは上がる。
許されるなら、毎日々くっついていたい位、好き。
それが、大和は違ったと言う事なのか?
自分の想いでは、満たしてやれてなかったのか?
ガーン。
さっきまでの勢いが嘘の様に、嵩原の心は意気消沈。
分かりやす過ぎる、下り坂。
「親…………………父…………………」
これ………………………俺の親やんな………………?
親です。
極道の頂点、天下の組長やってる、親やんな…………?
19歳であなたの親になり、最高の地位まで上り詰めた、紛れもない親です。
マジか……………………。
見た事ない。
いや、落ちた時はあるのだろうが、自分には決して見せた事なかったから。
そんな父親が、自分の呟き一つで、これ程までに落ち込みを見せるなんて…………………予想外。
挙げ句の果てには、『もっと頑張るし』。
こんなにも愛してくれている上に、もっと頑張る?
そこまで、愛してくれてるんだ。
ああ、昨夜の激しさが脳裏に甦る。
今すぐ抱かれたい………………そう思っちゃう。(気持ちは。身体は結構キテます)
「ホンマ、ごめん……………………親父」
自分にしがみつく父親のヘコんだ姿に、大和は戸惑う腕を背中へ回す。
可愛い。
何だろう、このキュンキュンと心が擽られる、たまんなさ。
愛しさが、ぐんぐん押し上げる。
ズルいよな。
雄々しかったり、可愛かったり、そりゃモテるよ。
「……………………全く、怒ったり沈んだり………………どんだけ感情が動かはるんです……………お忙しいお方や。どちらがお子か、わからへんやないですか」
「…………………………高橋」
もう、妬きもちより、苦笑い。
困惑する大和を見つめる高橋は、目を細める。
「若………………………私は、親父に愛されるお人は、世界一幸せなお人やと思っています。このお方に、余所見は出来ひん……………………ただ真っ直ぐに、ただ純粋に、ひたすら愛するだけ。呆れる程、愛情深きお方………………………だから、親父の為にもお聞かせ下さい。何故、寂しいと思われはったのか」
長い事側に仕えていたから、よくわかる。
嵩原が、どうしてここまで慕われるか。
二万を超す組員達、誰もが尊敬と憧れを抱き、自らひれ伏す。
色んな組長を見てきたが、その様な組長は嵩原以外出会った事がない。
それだけ、嵩原は見た目もさることながら、中身が素晴らしい。
そんな嵩原に愛されて、何が大和を寂しくさせるのだろう。
高橋は、自分にも見えない大和の胸の内へ、問いかける。
「高橋…………………………お前、小遣いか?」
これは、天然かボケか。
高橋の言葉を黙って耳にしていた嵩原は、感動した風に顔を上げて、この返し。
「ガキですか。小遣いもらわなあかん程、金に不自由しとりません」
ええ、仮にも竜童会若頭の右腕。
嵩原の時より手取りは減りましたが、なかなかのお金頂いてます。
嵩原を庇ってやろうとした高橋は、引きつりそうになる顔を懸命に抑える。
まとまる話も、まとまらんやないか……………。
「えっ…………………金やないのに、そないに俺を持ち上げてくれるんかっ!」
天然と見た。
「あの、親父………………ちょっと黙っとってもらえます?腹は立ちますが、若に抱きついていただいとって構いませんから」
腹は立ちますが。
腹は、立つ。
だって大和の身体は、たまらなく魅力的。
抱きしめると、嫌と言う程知ってしまう。
程よい筋肉質な身体に、吸い付きそうなキメの細かい肌と敏感な感覚。
きっと、手を滑らせただけで、身体は揺れるのだろうと思わされる。
自分だって、どれだけ貪りたいか。
「ヒド……………………………」
で、高橋に睨まれる嵩原は、素直に大和に抱きつく。
離れたくないオーラをバンバン出して、片手は腰、片手はヒップ辺りへちゃっかりフィット。
仮にも父親が、実の我が子をベタベタ触りまくる。
デキてなかったら、最早犯罪です。
「お……………親父……………ちと、苦し………」
そして、もがく大和のいやらしさ。
嵩原に抱きしめられる悦びと、戸惑う表情が入り交じり、一段とエロさを増す。
話、出来る訳がなかろう。
ガシッ…………………………
「は………………………」
「親父……………………少々、おイタが過ぎますね」
高橋、突然嵩原の腕を掴み、苛々ハチ切れる。
「私かて、若をお好きな気持ちは、負けてへん言うた筈です。それを相も変わらず、目の前でイチャイチャと……………………我慢も限界です」
限界です。
恋人やからって、ええ加減にせえよ!!
と心が叫ぶ。
「た…………………高………………」
「そう言うたかて、お前が抱きついててええって…」
「いやらしいんです!あなたの触り方はっ」
「ぇええ…………………っ」
まさかな、ここへきてお説教。
呆然とする大和の前で、高橋は驚く嵩原を一喝する。
「前言撤回です。親父は、愛情深きお方やのうて、単なるエロオヤジです」
「なっ……………………あんまりや、それ…………っ」
「はぁ?…………………何か?」
何か。
「いっ……………………いえ、何も…………」
ジェラシーとは、恐ろしい。
嵩原の腕を掴んだまま目尻を上げる高橋の、恐い事。
昨日、あんなに固い絆で結ばれてたのにね。
お父ちゃん、タジタジです。
「高橋………………………」
「さぁ、若……………………エロオヤジは放っておいて、ゆっくりお話致しましょ」
「俺、組長…………………っ」
組長を、エロオヤジ。
どんな組だ、竜童会。
わかってます。
偏に、嵩原だから許される。
「珈琲、直ぐに入れますね」
高橋は騒ぐ嵩原を無視して、大和の手を優しく引いた。
大和の手。
奪還成功である。
高橋の笑顔が、今日一美しい。
「俺の大和………………………」
その影で、指を加えるお父ちゃんの声が、殊の外侘しかった。
「もう、話より腹減ったわ………………」
この賑やかさに、どうでもよくなる。
確かに。
帰ってからが、一番疲れたし…………………。
昼の会席料理も、何処ぞに消えました。
大和はお腹を擦り、一呼吸。
「高橋ぃ………………………オムライス」
「はい………………では、先にお食事を」
「え?……………………高橋、俺は!?」
「え?何や、空耳が聞こえますね」
「高橋ぃぃぃぃ………………っ(泣)」
結局、色気より食い気。
姫は、お疲れのよう。
「…………………………やっぱり明日、山代に会おう」
それがいい?
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