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堅気の親父
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何かを始める時、そこには新しい風が吹く。
全てを吹き飛ばす様な、新しい風が。
「親父……………っ!!お疲れ様ですっ!!」
広い敷地に響く、野太い男達の声。
多くの組員達が視線を注ぐ中、颯爽と車から降りて来た錦戸がドアを開け、嵩原の道を作る。
竜童会組長と言う存在。
その場にいた誰もが、一斉に嵩原を守らんと壁を作り、高い砦となる。
大和が主役の今日、嵩原はわざわざ到着を大和と被らないように遅らせて来た。
それでも、そのオーラは世界を変える。
ザッ…………………
微かに土を踏む音に、皆が耳を傾け向ける中、親父様ご来会。
勿論、大和達も頭を下げ、出迎える。
「親父、今日はご多忙の中、関東立ち上げの席にご出席いただき、誠にありがとうございます」
マンションを出る前は、あんなにラブラブだった二人の、別の顔。
一歩外へ出れば、組長と若頭。
例え親子と言えど、そこに甘えはない。
大和は頭を下げたまま、嵩原が通る道の端に立ち、若頭として今日の礼を口にする。
今や、日本に敵はなし。
竜童会を、そこまで大規模なモノにした嵩原の価値は、息子の大和ですら容易に頭を上げる事は許されないのだ。
「ああ……………ご苦労やな、大和。支部長就任おめでとう……………今日は、支部長としての初手腕、しっかり見させてもらうからな」
初手腕。
色とりどりの立派な花々が飾られている、大きな玄関先。
然り気無く自動ドアを手で止める、伊勢谷の脇を通りながら、嵩原は煙草を片手に持ち、サラリと支部長へ重みをかける。
一線を引いた、組長の顔。
背が高く、惚れ惚れするような、華のある姿。
遠くにいても、そこにいる人間がただ者ではないと、思える空気。
組長の顔をした父親ほど、好きなものはない。
大和は、大好きな姿を視界に捉え、僅かに笑みを浮かべる。
「ええ…………見とって下さい。誰にも、文句は言わしやしません」
喜多見組との抗争を終え、明らかに大和は成長した。
今まで以上に仲間の大切さを知り、今まで以上に上に立つ厳しさを知った。
それは、真っ直ぐな瞳を見れば、一目でわかる。
「そうか……………そら、楽しみや」
必ず、いい方向に道は開かれる。
数々の極道者を見てきた嵩原にとって、大和の成長は、何よりも明るい兆しの現れだった。
「親父…………藤原さんらが、挨拶したい言うとりました。会が始まる前に、少しでも…………」
「せやな……………先、行くか」
大和と話を交わす後ろから、ソッと錦戸が近寄る。
高橋に代わり、嵩原の右腕となり、2年。
自分に厳しい錦戸は、現在では難しい幹部達から認められるまでになった。
嵩原のスケジュールは全て、錦戸を通してから。
藤原達とて、錦戸の了解を得なければ、嵩原との時間は作れない。
「申し訳ありません…………では、先に」
玄関ホールの奥を手で指し示し、敏腕な側近は大切な主を導く。
高橋が大和の為に全てを投げ出せば、錦戸は敬愛する嵩原の為に人生を懸ける。
其々の右腕にも、そこに立つ信念がある。
高橋しかり、錦戸しかり。
何気ない行動一つ、世間では蔑まされるヤクザであろうとも、深い意味を以て毎日を生きている。
ザワァッ…………………
「おいっ!!何やァ……………この車はっ!!」
突如、自動ドアが開けられ、天井の高いホールに反響する怒号。
何か、不足の事態が起きたのか?
嵩原が奥へ行こうとした時、いきなり警備に当たっていた組員達が騒ぎ出す。
その瞬間、嵩原の前には錦戸が、大和の前には高橋が立ちはだかった。
「…………………あ?どないしたんや………」
周りが瞬く間に騒然とする様子を横目に、嵩原が開かれた玄関の向こうを見つめた。
「リムジンですね……………」
組のものとは違う、見慣れない高級外車。
山代は、拳銃を忍ばせた懐へ手を入れ、目を光らせる。
警戒を強める門を、どうしてこの車が入って来れたかは不明だが、騒ぎ出す組員達に囲まれ、伊勢谷や花崎達も素早く身構えた。
「あれ…………あの車……………」
人の壁からチラつく、真っ白な車体。
あれって、確か………………。
どこか見覚えのある車に、大和だけは何かを思い出した様に呟いた。
「…………あいつ…………」
そして、少し離れて立つ嵩原に至っては、それが何なのかわかったようだった。
あいつ。
そう、あいつ。
嵩原はそう言って、呆れた風に煙草を口へ運んだ。
ガチャ………………
「コラァ、てめぇっ!!何処のどいつやっ!!」
「名も名乗らんと、いきなり何のつもりじゃァ!」
素知らぬ表情でドアを開ける運転手を睨み、近くの組員達はより声を張り上げる。
高そうなスーツを纏う、運転手の品の良さ。
ヤクザに怒鳴られても、微動だにしない教育の行き届き具合に、高橋達の動きも止まる。
何者?
多分、誰もが首を傾げ、心の中で疑問を抱いた筈。
「名も名乗らん?………………オイ、てめぇこそ誰や」
開かれたドアの奥底から聞こえる、低い声色。
「な……………ぁ…あ………」
「竜童会の組員が、俺の名前も知らんのか?あ?」
ゆっくり片足を降ろし、少しずつ見えてくる姿に、周囲は凍り付く。
明るい栗色の髪に、緩めのパーマ。
長身で、切れ長の瞳と端整な若々しい顔立ち。
これでも、36歳。
「竜童やからって、ナマ抜かしとったらシバくぞ」
新天地に、新風巻き起こる。
厳つい男達をものともしない、威圧感。
ヤクザより恐い男、現れる。
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