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大切な出会い
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人生が、変わる。
そんな夢みたいな事が、一度位はあってもいい。
「高橋………………………っ」
何も考えられなかった。
無意識に手を伸ばし、大和はあれだけ緊張していた高橋の身体へ、自分から歩み寄った。
「わ……………………か………………」
微かに揺れる背中を包み込む、大和の腕。
初めて、高橋を抱きしめる。
父親がプレゼントした香水を、今も買い続ける高橋からは、その匂いがほのかに香った。
いつもは抱きしめられ、高橋の大人の色気にドギマギさせられてきたのに、今夜は香水の匂いにホッとしてしまう。
「ごめ……………ガキには、上手い言葉も浮かばへん」
だから、温めてやる事しか術がなかった。
経験も浅いと、何をしてあげたら良いかさえ、頭に浮かばない。
情けなくて、益々泣けてくる。
「……………………………若」
そんな大和の温もりを身体に感じ、高橋はその胸元へ顔を埋める。
昔はもっと手がかかり、地元で有名な悪ガキでしかなかった、大和。
毎日生傷が絶えず、父親である嵩原に叱られるばかり。
でも、幼い頃から優しさだけはあった。
それだけは、どんな不良になっても変わらない。
人の痛みがわかる、優しい子。
ヤクザの子だろうと、片親だろうと、そんなものは関係ない。
嵩原や安道の様な大人に、厳しくも愛情を込めて育て上げられた大和には、胸を張れるだけの心が具わっている。
人生とは、金では買えないものばかり。
こんな優しい子に出会えて、自分は幸せだ。
そして、そんな大和を育て上げた嵩原に出会えて、自分は幸せだ。
「ありがとうございます……………………ええ大人が、恥ずかしい姿をお見せしました」
「高橋……………………………」
恥ずかしいなんて……………………。
そう言ってやりたかったが、自分から身体を離し、涙を手で拭いながら顔を緩める高橋に、大和は自分の涙を拭く事で精一杯だった。
結局、辛い筈の高橋が、大人を見せた。
出来るものなら、このまま大和の優しさに甘えていたかったが、それをしてしまう大人にはなれなかった。
十歳以上も歳下。
自分が、大和を守りたいと思う気持ちが前に出る。
男とは、つくづく馬鹿な生き物だ。
「……………………こないな私でも、手を差し伸べていただける……………………勿体ない位、幸せです」
高橋は、自分を包んでくれた大和の手を握りしめ、微笑んだ。
その笑顔がまた綺麗で、大和の胸を締め付ける。
「そんなん当たり前や…………っ…………お前の過去がどうであれ、俺には大切な右腕である事は変わらん。お前の犯した罪は、俺も一緒に償うし!!」
「若…………………………」
償う。
どうやって………………………。
何も出来ない子供の、勢いだけの台詞。
自分でも愚かだと思ったが、とにかく高橋に自分が側にいる事を伝えたかった。
「クス………………………ホンマに、親子ですね」
「え…………………………」
「まるで、親父を見ているようです」
「親父……………………?」
「はい。出会った時からずっと、私は……………今の若のような言葉を沢山親父からいただき、救われて来ました。いや、実際に救っていただいたんです…………あの黒河から…………………」
あの黒河から………………………。
嵩原に会わなければ、人生が変わる事はなかった。
一生かかっても返せない、恩。
高橋は、目の前に座る大和に、恩人嵩原を重ねる。
「…………………………高橋」
心配そうに自分を見てくる、大和の眩しさ。
よう似てはる………………………。
真っ直ぐで、濁りのない美しい瞳。
人を惹き付けて止まない、強さと心意気。
嵩原によって変えられた人生が、ここでまた変わろうとしている。
人生を変える出会いが、二度も訪れる。
もう、何も要らない。
「私が、黒河に命じられて人を殺した夜、親父は偶然現れました」
人殺しは、人殺し。
どんな理由にせよ、それは一生の罪。
高橋は、全てを語る覚悟で、大和と向き合った。
「心を失いかけてた私には、目が開けられない位に輝いていて………………………眩しいお人やった」
「眩しい………………………」
「ええ……………………若の愛してはるお方は、その時から既に、皆に愛されて、誰よりも光っとったられましたよ」
「愛し…………………た…………………た……か」
愛してはる方は。
わかりやすい程に顔を赤くする大和が、可愛い。
愛する人を褒められる。
嬉しくない訳がない。
咄嗟に俯く大和の顔は、耳まで赤くなっていた。
父親が、大好き。
それがまた、高橋の胸を擽る。
こう言う大和だから、好きになった。
「親父は、私に見返りを求めませんでした。ただ、助けてやる………………………初めて会った殺人鬼に、助けてやる……………………荒んだ私からしてみれば、イカれてるとしか思えへんかったです」
それでも、嬉しかった。
真っ暗だった世界に、針の様な細い光が差し込む。
嘘かもしれない。
自分があまりに気の毒で、同情しているフリかもしれない。
だけど、人の優しさなんか何年も味わった事のない少年には、いきなり現れたヤクザの言葉は、凍り付いた心を溶かすには充分なほど、嬉しかった。
戯れ言でもいい。
どうせ抱かれるなら、こんな人に抱かれたい。
道具としか扱われて来なかった人間は、道具として扱われる事を基準に考える。
今思い出しても、自分を人として認識する事さえ忘れていたようだ。
「若………………運命的な出会いって、あるんですね」
それが、恋人か、友人か。
何になるかは、わからない。
だが、確実に運命は変わる。
「親父は………………まさに、それでした………………」
運命的な出会い。
そう呟く高橋の眼差しは、哀しさから僅かな光を覗かせる。
自分が見た光は、今も見誤る事なく、道を照らす。
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