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「涼、俺玄関から移動したいんだけど…」
「んー…?嗚呼そうだったね。今スーツ洗ってる途中で洗面所使えないから水使いたい時はキッチン使ってね」
「ん、分かった」
1回、また1回。キスをしたらまた強請られてを繰り返し、俺が恥ずかしくなってきた所で逃げる口実に場所の移動を提案した。
どうやら涼は俺が来る直前までスーツを洗っていたらしい。涼はクリーニングに服を出そうとはしない。手入れが面倒なスーツだって自分で洗ってる。自分が知らない臭いが自分のものからするのが気に入らないとか、そもそも他人にベタベタ触られるのが無理とか、そんな理由からならしい。…涼らしい理由ではある?
「………おい、ちょっと待て」
「っわ…?!!」
リビングへ足を踏み入れたのも束の間、後ろにいた涼のトーンが何故か下がったような気がし、振り返ったその刹那。俺の体は涼の方へと引っ張られ、されるがままに壁に追いやられてしまった。
え、何。急にどうしたの?
「お前、ここ数日で何してた」
「え、りょ…?」
「またしたのか?止めろって俺言ったよな」
そして俺は涼に怒られてる。目が怖い。口調も怖い。これいつの日ぶりかの本気で怒ってる涼だ。
だけど、心当たりがなくて『したのか』と聞かれても俺は一体何をしたんだとこっちが聞きたくなる。え、俺マジでここ数日で何したっけ……?
「ひゃ…っ?!」
「なぁ、この擦過傷何。それからこっちの痣」
俺が過去の行いをを思い返していると、答えが出ないのに苛ついたのか涼が舌打ちして俺の手首を引っ張った。
両方の手をまるで凶器を隠し持ってるんじゃないかと疑う探偵みたいに探られ、擦れてる右の拳を指摘され、首をつつぅ、ってなぞられた。
「お前また喧嘩したのか?喧嘩でも売られた?」
「っい゛ぅ…」
「てめぇの体大切にしろって言っただろ」
骨が軋む音を立てそうな位の力で涼が俺の手を握り締める。眼前にまで迫った涼の顔は玄関前の甘えてる可愛い顔なんかじゃなくて、垂れ目なのに鋭く、色素が薄い瞳なのに真っ黒に感じさせる光のない目を持ったそれ。
涼が怒ってる原因。理解できなかった質問。それがやっと繋がる。
首と拳の怪我。多分、つか絶対。それは昨日のだ。
「りょ、その、違くて…」
「あ?」
「喧嘩?かもしんないけど喧嘩じゃなくて…」
あれってどう説明したら良いんだろう。喧嘩じゃあ…ないよなぁ。でも俺殴っちゃったし…あれは俺が一方的に怒っただけか…。うーん、ぴたりと当てはまる単語が思い付かない。
「…喧嘩じゃねぇなら、何。それ以外に何があんだよ」
「えっと…しゅ、愁……っ!!」
俺が言葉に悩めば悩むほど涼がどんどん不機嫌になっていく。それが嫌で咄嗟にその名前を口にしてしまった。
「…魔咲が何」
「だから、あの…愁と、色々あって…。手のは、俺が愁にムカついて殴っちゃって…首のは、愁の余裕がなくなって、それで…」
「…良く分からないんだけど」
「と、兎に角俺喧嘩はしてない…っ!涼が、心配してくれてるようなことは多分、してないから…大丈夫…!」
涼は普段は優しいけど俺が怪我することには厳しい。喧嘩にしろ、俺が不安定に良くなってた時期にしろ。転けたり、包丁で間違えて切っちゃったり。誤ってしてしまった奴にはそりゃあ怒らないんだけど。
その怒り様に毎回生きた心地がしないが、そのくらい俺を心配してくれてるってこと…なんだと思う。俺を大切に思ってくれてるから、こんなに怒る。自惚れでないのならの話だけど。
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