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まず、何処から話そうか。
そうだな、俺の名前から。
…俺の"血縁者"のことから。
「俺の今の性は母方のもので、兄貴と住むときに変わった。本当の名字…父方のは"桜木"。…ほらよく聞くだろ、"桜木病院"って。あそこの院長してる奴」
「…嗚呼あの、な。…は、あの人が父親なの?」
驚きを隠せないでいるようで、整理するためなのか俺にそう聞き返してきた。
…まぁ、そりゃあ良いとこの子供がこんなんとは誰も思わねぇだろうから普通の反応だよな。
「…血縁上は。そいつと母親は俺が4歳になるくらいに離婚した。理由は知らない。と、いうか正直4歳だった頃の記憶なんてあんま覚えてない。母親と仲が良かったらしい兄貴は母親の方に、俺と…もう1人兄がいるんだけど、そいつは父親の方に」
「…よくある話だな」
そう、よくある話。離婚して、兄弟が別れて。
経済的に安定し、余裕のある方にまだ物心もついていない俺が引き取られんのは。
だけど、その先も"普通"であれば、俺はこうなっていなかった。
「離婚する前兄貴はかなり荒れてた…っつーか荒れ始め?だったらしくて、俺はかすかにしか記憶にない兄貴を"失敗例"として何度も聞かされてきた。あんな風にはなるな。お前は一番上の兄のような人間になれ、…ってな」
幼い頃の俺はその言葉に疑問を抱くことはなかった。
兄のようになるのが当然だと、就学時から上を見ていた記憶がある。
父親が望むから、確か6歳位には塾に通って、小学生になってからは毎日毎日これでもかって位に勉強に没頭した。
小学生の頃、公園に行ったりゲームをしたりと遊んだ記憶は全くない。息抜きでしていたとすれば、父の書斎にあった本を読むことだった。
「…だけどさ、それが段々辛くなった」
小4の頃だったと思う。苦痛を覚え始めたのは。
父親にとって、俺が"上"であることは当たり前。
俺は一番上の兄のように"優秀"でいなければいけない。
その、幼い頃から言われ"当たり前"になっていたことが俺の重荷になっていった。
「俺、一度も褒められたことがない。テストで100点を取っても、塾の全国テストで1位を取っても」
だってそれは出来て当然のことで、兄にも出来ていたことだから。
何も言われなくとも、否言われないからこそ、父にそう告げられていると感じた。
俺が比べられるのは兄とで、そこに"俺"って存在は無くてあるのは"兄"って存在だけ。
比べられてる、そう感じる成績とかを親に見せる時間は、兄に自分の存在を消されてしまってるようで怖かった。
"兄"って存在に怯えながら、"当たり前"をこなしていかないといけない。
「辛くて、辛くて…何度も逃げ出したいって思った」
だけどそんなことをすればきっと父親は俺の事を"失敗例"だと言うのだろう。
それが幼い自分には何よりも怖かった。
幼く、小さな世界にいた俺には比べられることよりも、見放される方が。
「失敗だと思われるまでは、俺の"居場所"がまだある、そう思っていたかったんだ」
俺が許された道はただとっくの昔に引かれたレールの上を歩き、兄の背を追いかけるだけ。
本当はそこに"俺"はいるようで、何処にもいないのに。
だけそれでも当時の俺はそう思ってないと、壊れてしまいそうで。
「だから、頑張った。期待に応えれるように…"兄以上"になるために」
いつか、いつか。兄に追いつけば、兄を越せたのなら。
きっと父は俺を見てくれる。その時初めて俺に声を掛けてくれる。
そう信じて、冷えきった世界で、真冬のような冷たい世界で。
自分が生きているのかもわからないその世界で、俺は足掻いた。
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