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「んー高校入ってから、かな。
中学までは母さんと違うところで2人暮らししてたんやけど、どうせ息子が同じところ通うなら一緒に暮らそうって八尋さんのお母さんが言ってくれてな。それから。」
「……この家は、じゃあ八尋先輩の方ってこと?」
「せやね。八尋さんのお母さんが元々いいとこの令嬢さんやったらしい。この家は昔別荘として八尋さんのお母さんがもらったものやったんやって。
父親は今、どこにいるか知らんし。
俺の母さんは元々色んなとこ飛び回ってるからこの家におることも少なくてな。
俺1人お世話になっとる感じ。」
「なるほど……」
この素晴らしく大きい家に住んでる理由も、八尋先輩がいる理由も分かってちょっとすっきりした。
だけど……
俺は反対側にいる久夜の後ろにまわってみる。
「ん?どした梁瀬。お前から抱きついてくるん珍しいな。」
「なんか、寂しいなって。」
そのまま後ろから久夜を抱きしめる。
いくら八尋先輩がいい人でも、その家族が温かくても、この広い部屋で、毎日1人でいる久夜を想像したら、なんだか寂しくて、悲しくなった。
お母さんと2人暮らしをしてたときの方が幸せだったかどうかとか、そんなの久夜じゃないと分からない。俺がとやかく言うことでもない。
……だからと言って、久夜を1人にしていい理由にはならない。
「優しいな。梁瀬、お前が悲しむことやないのに。」
「……」
「やーなせ。とりあえず今日は帰り。駅まで送ってく。」
「……寂しくないの?」
「梁瀬がいるから、寂しくない。
それにこの生活嫌いやないねん。八尋さんも咲那さんも優しいしな。
梁瀬が思うほど嫌な生活じゃないで。」
俺の腕をほどいて立ち上がった久夜は、そのまま俺の腕を引っ張って俺を立たせた。
ぎゅーと抱きしめられて、軽くキスをされた。
「もうそろそろ暗くなるで。な?」
「…うん。」
流されてる気がするけど……いっか。きっとそれ以上触れられたくないってことだ。
鞄に教科書とかを入れて久夜の部屋を出る。
相変わらず広い廊下。
人気のない家。
……なんか、俺は苦手かもしれない。
「あれ、梁瀬君ご飯食べてかないの?」
「はい。お邪魔しました。」
「そう。気をつけて。また遊びにおいで。」
「ありがとうございます。」
……なんか部活の先輩に、彼氏の家で会うって嫌だな。
八尋先輩に一礼して久夜の家をでる。
門を出るときに1度振り返る。
門灯がついた玄関、綺麗にライトアップされた庭。
久夜は嫌な生活じゃないって言ったけど……
「今日帰ったらちゃんと復習せーよ?」
「うん。」
「今度は泊まりくる?」
「え……」
「やっぱ、梁瀬は苦手か。」
「えっ、」
「ずっと居心地悪そうやった。」
人通りの少ない道だからと久夜に言われて手をつないで歩く。
何気ない問いに、俺は答えることが出来なかった。
泊まりの質問はずるい。
今じゃなかったら、確実に食いついてた。
だって、お泊り。してみたい。
そのあとの質問もずるい。
無機質で、必要最低限しかない久夜の部屋は、俺が想像していた以上に冷たかった。
冷たかったけど、温かかった。
久夜の部屋には、いくつかの賞状とトロフィー、写真が飾ってあった。
バスケの大会での賞状。家族3人の写真。
居心地が悪かったわけじゃない。
久夜と一緒に、久夜の部屋にいられたのは嬉しかった。
…ただ、どうすればいいのか、分からなかっただけ。
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