アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
9
-
「梁瀬、どうゆうこと。」
「…はっ?え……なんで…どうして…………」
「梁瀬、どないしたん?うわっ、なんやあいつ……
めっちゃイケメン。…ってあいつ、新入生代表の言葉言うてたやつやん。
梁瀬知り合い?」
急に前のドアから名前を呼ばれてそっちを向けば、ここには絶対ここにいないと思ってたはずのあいつが立ってた。
俺は開いた口が塞がらなくて、久夜が何か言ってるけど、何も入ってこなくて、俺はあいつから目が離せなかった。
あいつが、こっちへ近づいてくるのをただ見てるしかなくて。
気づいたら俺の目の前にまで迫っていた。
「梁瀬。俺、お前は陸上部に入るって思ってた。
仮入部には来なかったけど、本入部はそれでも来る、って思ってた。
でも昨日梁瀬は来なかった。
…なんで?」
頬に手が当てられて、するりと撫でられる。
……こいつのこーゆーところが嫌いだ。
顎を捕まれて、目が合う。
無表情で何を考えてるのか分からない、冷たい瞳。
もう、戻れないところまできたのだろうか。
「俺……高校はバスケ部の、マネージャー、やることにしたんだ……
彼方には悪いけど、陸上は…もう、やらない。」
「……梁瀬、それ、本気で言ってんの?」
「本気、だよ。」
「……また来る。」
「………………」
なんで、あいつがいるんだよ。こんな陸上の強豪でもない学校なんかに…
だってあいつ、清向学園から推薦来てたはずだろ?
だから絶対ここには来ないって思ってたのに……
「梁瀬??やなせーー??」
「………」
「やーなーせっ??どないしたん??あいつ、知り合いなん??」
「あっ、久夜………、…久夜………」
彼方がいなくなってから、急に力が抜ける。
俺、どうしよう……どうすればいい??
だって、逃げてきた。陸上からもあいつからも。
なのに、同じ学校とか……俺は、どうすればいい……?
「梁瀬、ちょ、落ち着けって。な?」
「ひ、さや……」
「……場所移動するで。」
久夜に腕を引っ張られて、席を立つ。
どんどんと進んでいく久夜のあとを追って、ついたのは、バスケ部の部室だった。
昼休みで誰もいない部室は、俺と久夜だけじゃ広すぎて、変な空間だった。
………久夜は何も言わない。
「…………さっきのやつ、氷野彼方(かなた)って言うんだ。
俺の、中学の時の部活仲間だった…」
「氷野、彼方…。あいつやね、陸上のプリンス言うんは。」
「多分……あいつ、速いの当たり前なんだ……去年の…中学の全国大会で100mと200m優勝したから……
だから、陸上の強豪校からも、推薦きてて。」
……なんでここにいるのか、こっちが聞きたい。
終わった、はずだった。
お互いに笑いあえる時間も、一緒に過ごせる時間も。
関係が変わったあの瞬間から、全部崩れてった。
「仲、悪いようには見えんかったけど…」
「悪くないよ、中学の時に一番仲良かったのあいつ、だったし……」
「だったら、なんで?」
「…………」
あいつのことは好きだった。
例えばそれが、嫉妬と羨望に変わっても。
ずっと一緒に走ってきたのは彼方だけだったから。
一緒に走るのは好きだったから。
敵わないと分かってても、もう一回くらい彼方と走りたいと思ってた。
あの背中を追いかけ続けるのが苦しくても、あいつの背中に見える翼が綺麗だから。
何度だって追いかけ続けることができた。
だけど、彼方はそうじゃない、っていう現実を知った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 80