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公園と桜とボク6
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トイレの外には撤収してきた荷物が置いてあった。
「……寒い」
「もう帰りますか?」
「別に急いで帰らなくてもいいけど、桜はもう充分だ」
帰る気満々のかーくんは、荷物を持ってさっさと駐車場に向かってしまった。
車に乗り込んだはいいものの、動き出す前に目的地を決めなければならない。
「さて、どこに行きましょう」
「思いつかないな」
「ボクも思いつきません」
「……じゃあ帰るか」
せっかくのデートなので――いや、デートと思ってるのはボクだけだろうけど、デート気分を味わえているので、まだ帰りたくなかった。
必死に頭を動かして行き先を探す。こういう時に限って何も浮かばない。
「……あ!」
行きたい場所を思いついた。でも二人で行くには場違いだし、寒いと言ってるのに寒い場所に行っても仕方ない。
口をつぐむと、かーくんはエンジンをかけようとする手を止めた。
「何?」
「なんでもないです」
「何でもないなら、もうちょっと何でもない感じを装ってくれないとスルーしようにも出来ないんだけど」
「あう、すみません」
いたたまれなくなって、自分でも大きいと自覚している体をできるだけ縮めた。
「……で、どこ行きたいの?」
面倒くさがらずに聞いてくれたかーくんに、言うだけ言ってみようと思った。
「せっかく海の側まで来たから、水族館に行ってみたいなって思って」
「この寒いのに水族館?」
「……で、ですよね。イルカショー観るのにも寒いですしね!」
「イルカショーまで観る気満々か」
かーくんは呆れたように笑って、さしっぱなしになっていた車のキーをひねった。
三十分もかからず着いたのは、こじんまりとした水族館だった。シーグラスや貝殻の埋め込まれた外壁は綺麗だったけど、どことなく寂れた雰囲気がある。玄関の扉には『今年度いっぱいで閉鎖』の文字。
受付でお金を払って、入館した。館内は水槽が目立つように薄暗い。
「なぁ、この水族館にイルカっているのか。ショボすぎていそうもないぞ」
かーくんはチンアナゴの水槽を覗き込んで言う。かーくんの無意識の親父ギャグに吹き出しそうになった。吹き出したら機嫌が悪くなりそうなので、深く息を吐いてなんとかこらえる。
「どうなんでしょう。イルカ、いるんですかねぇ……」
ボクもかーくんの隣に並び、チンアナゴの、可愛いような気持ち悪いような体を見つめて呟く。
「ぶっ」
かーくんが笑ったように思えたけど、きっと気のせいだ。だってさっき自分でも言ってたし。
係の人をつかまえてイルカショーをやっているのか聞くことにした。
「すみませーん。イルカショーって――」
「ぶふっ」
赤くなった顔を手であおぐかーくん。もはや親父ギャグではなく、“イルカ”で反応している。
ボクたちの会話が聞こえていたのか、係の人は口の端をピクピクと痙攣させながら振り向いた。
「すみません、うちの水族館にはイルカいないんですよぉ」
「ぶはっ」
“イルカショーはやってない”といえばいいのにそんな言葉で返してきた係の人は、絶対に狙ってる。どう見ても目が笑ってた。
「ゴホッゴホン」
わざとらしい咳で誤魔化すかーくんが、可愛くて可愛くて仕方なかった。
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