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変わりゆく11
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バレンタイン直前の土曜日、ボクはスーパーで買い物をしてかーくんのアパートを訪ねた。
かーくんからメールで住所が送られてきた時には、ボクなんかに教えてしまっていいんだろうか? と疑問が浮かんだ。
よく考えてみればなんてことはない。職員名簿には全職員の住所や電話番号がバッチリと記されている。こんなだから生徒にも“脳ミソ筋肉”なんてバカにされるんだ……。
「痛っ!」
落ちこみながらドアの前で立ち尽くしていると、急に開いたドアに顔をぶつけた。
かーくんはタバコを口に咥えながら、中に入るようにと親指で室内を差す。
「いい加減学んだらどう?」
2DK。おそらくリビングとして使っている部屋にチョコンと正座するボクに、かーくんは言った。
タバコの煙を吐くためにすぼめられた唇が色っぽい……なんて思って、さとられないよう、ボクはブンブンと頭を振る。
「……で、唐揚げは?」
「いっ、今から作ります!」
慌てて立ち上がり、カバンから白の割烹着を取り出して身に付けた。
「……ぷっ」
笑われた気がして、後ろ手に蝶々結びを作る途中で顔を上げる。
「エプロン、今までの女は“いいオンナでしょアピール”のためにしかつけて無かったけど、使い込んでるんだね。それに割烹着って……ぷくくっ」
「小まめに洗ってるけど、汚れてます?」
この割烹着は、隣の、そのまた隣の市で弁当屋をやっている叔父夫婦からの頂きものだ。腕まで隠れるので揚げ物には最適。
考えてみればもう何年も使っているような気がする。
「いや、汚れてないけど、とりあえず折り目はちゃんと消えてるなって。おろしたてだと畳んだ時の跡が残ってるでしょ」
「あ〜……、数回も洗えば消えますけどね」
「大抵女とはエプロンの折り目が消えないうちに別れる。なぜか知らないけど」
「味にうるさい、とか?」
「さぁ? そういえば料理を食べた後に別れを切り出されることが多いから、そうかもね」
かーくんはテーブルに置いてあった灰皿に手を伸ばし、タバコの火をグシャッと消した。美味しいものをつくれよ、とさりげなくプレッシャーをかけられている気がする。
ボクは気合いを入れるため、いつもよりキツめに割烹着の紐を縛った。
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