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「ぇ、と、か、柏葉…!」
「ん?」
俺の意志は無視なのか、全く気にせずに肩を抱いたまま歩く。しかもかなりの早足でついて行くのもやっとだ。
「ちょっと待って…!早い…。」
もつれそうになる足をなんとか柏葉に引っ張ってもらいながら歩いていたが(ほとんど走っていると言っていいだろうが)そろそろ限界だ。このままでは相手も巻き込んで転びかねない。
「ちゃんとついて行くから1回離してほしい…。」
見上げて柏葉に訴えかける。いつも直視出来ていない顔が今はほんの数十センチ先に存在する。だが俺はそれどころではなく、頭の中はいかに離してもらうか、それだけだった。
「…。」
「……………柏葉?」
じっと見返してくる柏葉は1度立ち止まったあとから動かない。
何か不味いことでも言ったか。しかし今までの内容から俺は間違ったことは言っていないと思う。
………多分下心も無かったと思いたい。
「…体調は大丈夫?」
急に切り出したかと思えば、ゆっくりと肩の手が離れ、一定の距離になる。
どうしたのか不思議に思いながらも離れたことによる安堵と、もう少しあのままが良かったという欲が見え隠れする。
どちらにも無理矢理蓋をして、できるだけ感情を殺す。
このままだと話が進まない。何故柏葉は俺をこんな強引に引き連れてきたのか。
いちばん気になるところだ。
「えっと、お陰様で…。柏葉が運んでくれたって聞いて。」
まだお礼を言えてなかった、ありがとう。
そう伝えると少し笑った彼の表情が見えて、こちらが嬉しくなってしまう。
「いや、大したことではないけど。まぁ元気になって良かった。」
どういたしまして。
微笑む彼についつい見蕩れてしまうのは惚れた弱みだ。多分。
そんな幸せなこの一瞬にいつまでも浸っていたい。極ありふれた会話をして、笑って、そして。
手に入れたかったものが今手の届きそうな所にある。
ーーーーだが、手を伸ばすことは許されない。決して。
「それで、真咲。今度の飲み会の件なんだけど。」
それを言われて思い出す。そうだ、断らないと。
「あの、柏葉、それなんだけど、」
「この前倒れてたし、無理はしてほしくないんだけど、俺は是非真咲に来て欲しいからさ。だからご飯だけでもいいから食べに来ない?」
そう言って嬉しそうに言うものだから、やっぱり惚れるより惚れられる方がいいのだなと実感した。
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