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まさか、誰かが部室に来ると思っていなかったからパッと顔を上げてその先にいる人を見つめるしかなかった。
やだな…こんなとこで何してるの?とか聞かれるの…。
そう思って構えていたら、ドアの先にいたのはあの日、職員室でぶつかった時と同じ白地に紫の柄のジャージを着た紫波さんだった。
「あそこにいないと思ったら、こんなとこにいたんだ」
俺を見つけるとニッコリと笑った。ドアを閉めると俺に「隣いい?」と聞いてきたから「どうぞ…」と返す。
冷たいコンクリートの上に2人座る。この何とも言えない空気に押し潰されそうになりながらも、紫波さんに話し掛けた。
「あの…どうしてここに?」
「特に理由はないけど…強いて言えば、薺君と話してみたかったからかな?」
「俺と…?」
信じられなかった。普段から人付き合いが下手な俺と話してみたいと思われたことが…。
驚いて隣に座る紫波さんを見つめていると「そんなに見られると照れるなー」と苦笑いを零しながら言った。
「ご、ごめんなさい!つい…」
「ははっ、別に謝らなくてもいいよ。そう言えば、薺君ってテニス上手いね」
「そ、そうですか?中学の時からやってるからかも…」
高校から始めた人と中学からやって来た人の差はそこそこあると思う。後は、センスだろうな。
「それもあると思うけど、最初はなかなかモチベーションが上がらなかったでしょ?」
「…はい」
「だけど、途中からいつも通りの練習が出来た…テニスに限らずスポーツってさ、精神面がかなり重要になってくるんだよ」
その言葉の意味は分かる。技術だけが良くても精神が弱ければ自分のプレーは出来ない。それこそ、宝の持ち腐れだ。
どんなことがあっても揺るがない精神が必要となって来る。
「薺君はそれが出来ている。精神をコントロールすることは簡単なことじゃないけど、それを乗り越えた人は強靭の心を持つことが出来るんだ」
「そう…ですかね?俺なんかまだまだですよ」
「俺"なんか"って言っちゃダメだ。もっと自分に自信を持っていいんだよ?自分で自分を悲観することは良くないよ」
俺の目を見て紫波さんが語る。その漆黒の瞳に俺の考えや思っていることが見透かされてそうで怖い。
キラキラと輝いて見える瞳に自分が映りこんでいる。
そんな瞳で見られる程、俺は綺麗じゃない。汚れた存在だ。
その漆黒から逃れるように自然と視線を逸らした。
「…"僕"は、周りが思ってるような存在じゃない」
「えっ?」
「いえ、何でもありません。もう休憩時間終わりますから行きましょう」
ボソッと呟いた言葉は紫波さんには聞き取れなかったらしく、聞き返してきたが何事もないように振る舞った。
俺は周りが思ってるような、綺麗で純粋無垢で健気な人間じゃない。
天使の面を被った悪魔なんだから。
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