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「どうしたの薺君?」
「へっ!な、何がですか?」
「ぷはっ!薺君もそんな風に動揺するんだ」
「あ、えっと…」
声を上げて笑う紫波さんの言葉にどう答えればいいのか分からなかったら、「ごめんごめん、少し新鮮だったから」と言った。
いつも笑顔を絶やさない紫波さん。この人と一緒にいて居心地が悪く感じたのはきっと、俺の気の持ちようなんだろうな。
「…今は、居心地がいいからな…」
「ん?何か言った?」
「っいえ、なんでもありません」
思わず口に出していた言葉に自分自身が驚いた。紫波さんは周りの音に掻き消された言葉が聞き取れなかったらしい。
…そうだ。今この瞬間、俺は彼といることが楽しくてずっと一緒にいたいと思ってる。
これはもう、認めざるおえないだろ?
「あ、薺君、この後何か用事とかある?て言うか、図書館に用事があった?」
「いえ、今日は部活が休みだったのでゆっくりしようかと思ってて…」
「なら一緒に図書館でゆっくりする?」
「…そうしたいんですが、家から電話が掛かってきて、帰って来いと言われたので…」
こんなの真っ赤な嘘。でも、気付いて認めてしまった感情を持ったまま一緒に過ごすなんて無理だ。
申し訳なさそうに言えば、「そっか、それならしょうがないね」と苦笑いをした。
ズキズキと痛む胸は、俺がこの人に嘘を吐いている罪の証。
「すみません、助けていただいたのにお礼もできなくて…」
「気にしないで。それに、俺だって誰彼構わず助けるほどお人好しでもないし」
「…っ」
両肘を付いて組んだ手の上に顔を置きながら優しく微笑む。その姿は反則だ。
そんな表情を見ると男女関係なく惚れてしまう。
思わず息を呑んだ。
それに、その言葉も…俺だから助けてくれたのではないかと思ってしまう。
…ダメだって。何期待してるんだ。
俺なんかが幸せを願ったりする資格なんてない。
忘れちゃいけないんだから…俺は、天使の面をした悪魔なことを。
どうにか一言「あ、ありがとうございました」と言って空になった抹茶オレのカップを手にして席を立った。
店を出る前にチラッと紫波さんを見れば、こっちを見て手を振っていたから、俺もそれに応えるように小さく頭を下げて店を後にした。
気付いてはいけなかった。
認めてはいけなかった。
最後まで、"俺"を貫き通さなければいけなかった。
でも、もうこれ以上偽ることはできない。
……"僕"は、紫波さんが好きだ。
外に出れば、まだ陽が高いから暑さが身に染みた。
「…きっと、伝えることはない」
ポツリ、呟いた言葉は空気となって散った。
伝えれる筈がないんだ。紫波さんは俺と違ってノンケだと思う。
ノンケに恋するなんて…叶う筈がない。
でも、想うだけなら自由だ。
後2年、この気持ちがあればきっと乗り切れる。そしてその後、徐々に昇華させていけばいい。
…紫波さん、あなたのことが好きな俺を許してください。
ゆったりと流れる雲を見つめながら、心の中で彼への想いに懺悔した…。
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