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無心でいようと決めていても、言葉は凶器となって抉られる。
…痛い、痛いよ…。
キョウ君に会いたい…。
もう聞きたくない。
助けてキョウ君…。
不安定な情緒を表に出さないように、必死に自分を抑える。
今傷付いていいのは僕じゃない…兄さんと蓮さんだ。
「母さんにそんなこと言われる筋合いはない。俺はもう大人だよ?自分のことは責任がとれる歳だ」
「責任なんて簡単に言わないで!私がどれだけ頑張って貴方達を育てて来たか…っ」
「うん、それは感謝してる。でも、自分の人生は自分で決める」
そう力強く、母親の目を真っ直ぐ見て答える兄さんを蓮さんは誇らしげに見つめていた。
…強い。この2人の間にある絆は僕が思っている以上に強く、強固なモノだ。
僕とキョウ君も…こんな関係になれるだろうか?
堂々と、自分達の関係を恐れずに生きていきたい。
痛む胸の隅っこに、小さな小さな希望が生まれた。
けれど、その希望はいとも簡単に崩れ去る。
「っ、貴方も"あの人"の血を受け継いだのねっ」
「っかあさ…」
「男に手を出すなんて、"あの人"と同じよっ、気持ち悪いっ!」
「止めろ母さん!!!」
兄さんらしくない大声がリビング中に四散した。
それに我に帰ったのは母親で…何かに気付いたように僕を視界に入れた。
…僕は今、どんな顔をしてるんだろう?
それさえも分からない。
…堂々と生きていきたい…確かにそう思ったけど、それは無理なんかじゃないかと思う。
だって、僕を産んでくれた母親に気持ち悪いと思われているのだから…。
今の言葉だって僕に言ったわけじゃないけど、遠回しに僕のことも言ってる。
母親は自分の言った言葉を後悔してるのか、「ち、違うのよっ、薺のことを言ったわけじゃ…っ」と動揺しているし…。
兄さんは悔しそうに顔を歪め、蓮さんは話しが見えないのか僕達をそれぞれ見ていた。
母親の言葉を聞いて、この人は"あの日"のことを許してないんだと分かった。
…いや、きっとこれからも許しはしないだろう。
…"自分の夫"が"実の息子"に性的目的で手を出そうとしたことを…。
3人が僕を一斉に見つめる。3人それぞれの反応を示しながら。
ここで僕が苦しんだり泣いたり、感情を露わにするのは違うだろうな…。
…大丈夫、いつもの"俺"になるだけだ。
それに、これは分かりきっていたことだ…全部、全部今更なんだ。
そう考えたら、自然と笑顔を浮かべていた。
「…何のことですか?あぁ、忘れてましたけど、今日は俺これから出てかなきゃいけないので…」
「…待って、薺っ…」
「ごめんなさい、兄さん。一緒に作ろうと言ってくださったのに」
「…っううん、今度一緒に作ろうね?」
「はい…では蓮さん、ゆっくりして行ってくださいね」
最後の最後まで笑みを絶やさずにリビングを後にする。そして、母親の顔は一切見ずに…。
リビングを出てそのまま自分の部屋に向かい、制服を脱ぎ捨てて私服に着替えて必要な物を持ち玄関に向かう。
「っ薺!お願い、話を…っ」
靴を履いていたらリビングから出て来た母親の声が聞こえたが、何も聞こえてない風を装いそのまま家を出た…。
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