アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
186.
-
「え、柊?」
「…母さんと父さんが離婚したのも、父さんが居なくなったのも…ナズ兄は悪くないし嫌ってもないから」
キョウ君の胸から顔を上げて兄ちゃんの隣に座る柊を見る。
僕達とは違って男らしい顔付きで中学生らしからぬ真っ直ぐな瞳を向けながら、まるで僕の心を除いてその不安を和らげる為に言ってくれているように感じた。
少し前の僕なら、あの出来事は僕の所為だと言っていた。
でも今はそう思わない。
その代わり、アレは誰の所為でもないと言う。
でも、そのきっかけを作ったのは紛れもない僕だから…罪悪感はあった。
「グスッ…柊の言う通り、俺達本当に父親がいないことは気にしてない。てか、当然の報いだし俺は母親も許してない」
「兄ちゃん…それは…」
「"あの言葉"もだけど…今でも無意識に薺を傷付けている。それを自覚してないんだからタチ悪い」
鼻をすすり温厚な兄ちゃんにしては珍しく人を悪く言う。
それに対して柊も頷きをみせるものだから、見てるこっちがハラハラしてしまう。
こうして2人が言葉であの日のことをどう思っているか伝えてくれたから、今、心底安心することが出来る。
「…いいよ別に。母親は僕のことを嫌ってるんだから、何言われたって平気」
「…薺、母さんは別に嫌っては…」
「それに!僕にはキョウ君がいるから大丈夫!」
僕の言葉に目を細めながら話そうとする兄ちゃんの言葉を遮った。
本当は分かってる。
母親は僕を嫌っていないと。
けれど、そう思わないと無意識に発する棘の含んだ言葉を真に受けてしまうから。
やっぱり血の繋がった母親の言葉は重くて受け入れたくないと思ってしまう。
だから僕は、母親は僕を嫌っている、と思い込んで傷を浅く済まそうと思ったのだ。
その僕の思いを汲み取ったかどうかは分からないけど、兄ちゃんはそれ以上言わずに「そっかぁ…桔梗君が薺を変えたんだね」と笑みを浮かべながら言った。
「うん…初めはね?深く関わらないようにしてたんだけど、キョウ君ズカズカと僕の中に入ってくるから」
「ちょっと、その言い方は不服だな。俺はいつでもナズのことを思って寄り添おうとしただけなのに」
「えー、そうかな?まぁ、キョウ君がめげずに僕を追い掛けてくれたから…いつも、何があっても言動で示してくれたから…僕はその想いに応えたいと思い変わろうと思ったの」
最後は兄ちゃんや柊、そして蓮さんを見ながら笑って話す。
この人がいてくれなかったら、僕は今ここにいない。
ずっと逃げ続けて、1人で生きて行く為に何も言わずに姿を消していただろう。
その考えを改めてくれたのが、キョウ君の変わらぬ愛。
そして、その愛に応える為に全てを彼に捧げようと決めた。
3人は嬉しそうに「今の薺も好きだよ」と言ってくれて、自分を曝け出して本当に良かったと思った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
187 / 233