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カウンターの向かいに座る客は、常連の佐口組の幹部、毅一聡-キイチ サトル-だ。彼が九十九昴に問いかけたわけでは無い。
ーだれ?
辺りを見回すが、誰の口も、その動きをしていない。
「?…サケティーニを。」
途中で言葉を途切れさせた九十九昴を不思議に思いながらも、毅一聡はカクテルを注文する。
「…っ…かしこまりました。」
目の前の客に悟られない様に、笑顔を見せながらも必死で相手を探す。相手は九十九昴が仕事をしながら、情報収集を行っていることを知っている事になる。
それを知った上で、何処か九十九昴の目につかない場所から彼が必ず拾うだろう言葉を投げかけた。
「何処を見ている?…赤髪の男について知りたいのかと聞いているんだ。」
他の誰にも届いていない声は、九十九昴にのみに伝わる。目の前に毅一聡がいる為に、変な行動はできない。ただ、カクテルを作りながら相手を必死で探すことしか、今の九十九昴にはできなかった。
ーくっ!…どこにいる…。
「お待たせいたしました。サケティーニでございます。」
喜一聡は、心ここに在らずの九十九昴に、渋い顔をした。
「おい…。ここは、そんな接客をする店だったか?」
低い、唸る様な声で言われ、我に返る。悟られぬ様にと配慮していたにも関わらず、毅一聡に気づかれてしまった。
「申し訳ありません。」
慌てて頭を下げるものの、怒りを納めきれない毅一聡は出されたカクテルを九十九昴の下げられた頭にかけて、店を出て行ってしまった。
髪から滴る水滴に、頭が冷えて行く。
「…っ!」
自分の失態に、唇を噛み締め、頭を上げられないでいると、また声がした。
「ふふっ…答える気が無いのなら、帰るとしよう。邪魔したな。」
思わず顔をあげ、店の入り口に目を向ける。
赤い髪。
美しい緋色。深く、情熱的で、飲み込まれそうな赤。
あの日、父と母が亡くなった、殺された日に見たあの赤だ。
「昴?…平気?これ、タオル…」
井端甫に差し出されたタオルも、井端甫の発した言葉も、周り全てが今の九十九昴には届いていない。
何も無い、無音の空間で、扉の閉まる音と、その向こうに消える赤い髪だけが唯一の情報となって九十九昴の中に流れ込んで来た。
「っ!」
思わず、扉に向かって駆けていた。必死だった。必死すぎて、何も考えられなくなっていた。止める井端甫の声も、何もかもが、不必要な情報として処理される。
「赤髪??」
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