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「昴が、何処かに行っちゃった…」
頭の中でその言葉だけが処理されずに、何度も何度も木霊する。
ただ店を飛び出しただけ。しかし、その行為事態が九十九昴には全く持って当てはまらない、彼が一番することの無い行為だ。
そのうち帰ってくるだろうなどという安易な考えは、ただ、普通に生きている人々が考え得るもので、『SUBARU』で働く彼らには遠く、縁のないものだった。
普段とは異なることが起こったという事が、イコール危険信号なのだ。それはまさしく信号の様なもので、普通は青の次は黄色に変わるもの。
しかし、『SUBARU』では黄色は存在しない。青で無いのなら、赤なのだ。だからこそ、井端甫の表現の仕方は正しかった。
九十九昴は、何処かへ行った。ただ、彼の言葉には、もう戻ってこないかもしれないという、哀情が含まれていた。
「…行け。」
何事かを処理しきれずに佇む藤城悠に、有村春一は短く言葉をかけた。
愛した相手に手を出さない為に、何年も相手を避け続けた。
血の匂いに包まれた屋敷に、信用出来るかわからないメール一つで飛び込んだ。
強姦されているところを見て、相手を半殺しにした。
どれも、たった一人、九十九昴の為。
今回も、九十九昴の為に「行け」という、合図なのだ。
藤城悠は要領が良くなんでも卒なくこなすが、九十九昴の件に関して、彼は誰かに言われて動いている。
九十九昴から離れたのは、自らとった行動だったが、それ以外、屋敷に入ったのはメールで夏目直孝に呼ばれたから。強姦しているところに出くわしたのは、藤堂雪に電話で呼び出されたからだ。
それを知っていた有村春一は、今回夏目直孝や藤堂雪と同じく、藤城悠を動かす第三者になった。
「…悪い。少しあける。」
「此処は気にするな。」
「ああ…」
何度も見た背だ。有村春一が『SUBARU』へ来てからも、何度も彼は九十九昴の為に。
幾度も彼の元へと向かって行った。
見えなくなった藤城悠の姿に、思わずため息を漏らす。
「…ったく、間抜けな面晒しやがって。しっかりしろよな……騎士-ナイト-さん。」
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