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鬼軍曹のおうち-9
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(え? あ、あの……。あ、そうだ、お代)
とりあえずお金を払わなければと鞄の中から財布を取り出すと、面倒くさそうな顔で遮られた。
「要らん」
「はい?」
「出前は2人前からしか頼めないんだ。いいから黙って食え」
漣人の家は大家族だから出前を頼むといつも大量にやってくるので、1人分の出前はNGだというのは初耳だった。
どっかりとソファーに腰を下ろしてペットボトルのお茶を飲んでいる律耶を見ていると急に空腹感が襲ってきた。
「いただきます」
小声で言って桶を開ける。
(わぁ)
瑞々しく光るネタは、大学の同級生やバイト仲間といつも行く100円の回転寿司よりも遥かに大きくて美味しそうだ。
マグロだって赤が濃くて分厚いし、漣人の大好きな海老は見ているだけでその旨味が口の中に広がって来る。
律耶と差し向かいで食事を取る恐ろしさも忘れて素直に感激した。
しかし、桶の中を隅から隅まで眺めたところで、漣人の目はある一点を捉えたまま凍り付いてしまった。
(困ったな……)
桶のど真ん中にはウニが主役級のオーラを放って鎮座している。
嫌いな食べ物がほとんどない漣人もウニだけは食べられなかった。
律耶に折角用意してもらった食べ物を残すのも恐ろしくて固まってしまう。
凪と食べる時はウニは食べて貰っていたが『律耶先輩、ウニあ~げる♪』なんて出来るわけない。
「何だ、寿司は嫌いか?」
「いえ、お寿司はむしろ大好きなんですけど……」
「だったら何だ?」
「いや、その……ウニがちょっと……」
ついに言ってしまった。
(恐い恐い恐い)
何を言われるか心配で、下を向いたまま審判を待つ。
(どうせならウニ食べたら蕁麻疹が出るっていえばよかった)
食物アレルギーなら流石の律耶も無理やり食べさせはしないだろう。
「他は食べられるのか?」
「は、はい」
金の蒔絵が施された箸が漣人の桶にスッと伸びてきて、ウニの載った軍艦巻きが律耶の口の中に吸い込まれて消えた。
(よかった)
ほっと胸を撫で下ろして、ルビーのような輝きを放つマグロの赤身に箸を伸ばす。
「お前は……」
「はい?」
「お前はどれが好きなんだ?」
「はい? あ、海老が好きです」
戸惑いながら答えると、律耶は箸を反して自分の分の海老を漣人の桶に入れてくれた。
「あ、あ、あの、ありがとうございます?」
「別に」
(優し……い?)
今までの律耶には見られなかった気遣いに、ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ律耶が恐くなくなった。
(もしかして、練習も優しくなるかな?)
もし今日が律耶のデレ日ならば凪のような優しいレッスンをしてくれるかもしれない。
しかし、そんな望みは練習が始まって早々に砕け散ったのだった。
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