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お人好しな教師。
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あれから俺は無言で作業を終えてそそくさと岡場から逃げるように家に帰った。
手伝いが放課後で良かったと心底思った。
家に帰ると母さんが晩飯の支度をしている途中でその背中にただいまといつものように声をかけた。
「おかえりなさい」
俺に気づいた母さんはこっちを見て手を洗ってきなよと静かに言ってまた晩飯の支度に戻る。
「なぁ、母さん今日の飯なに?」
「ん?えーとねぇ、肉じゃがにしようと思ってたんだけどカレーのルーがまだ余ってたからカレーかなぁ」
「え?カレーか!うまそー」
「こら!手ぇ先に洗ってきなさい!!」
「はいはい」
俺の唯一の安心できるとこ。
やっぱり家なんだと思う。
父さんは俺が7歳の時に交通事故で死んだ。
父さんのことは何となくだけど覚えている。
だけど寂しいとかはなかった、母さんがその分俺にありったけの愛情を注いでくれていると分かっているからだ。
こんな息子を女で一つで育ててくれている母さんには頭が上がらない。
だから、高校入った最初はバイトをしてたけど母さんが高校生活をもっと楽しめ!!なんて言ってバイトはやる必要ないなんて言われてしまったので今はやっていない。
だからせめて勉強だけは一生懸命やってる。
まわりからは天才みたいに言われがちだけどそれは勘違いだ。
俺は影で沢山の努力をして今がある。
どんなに辛くても家族に迷惑を掛けたくなくてその力でここまでやってきた。
それをあからさまにやったりするのが嫌いな俺は影で努力をしてきた。
それが後々、天才だとか、努力を知らないなんて言われてしまう結果になってしまったけど。
「ねぇ、卓真」
手を洗い終わってリビングの椅子に腰掛けてテレビを見ていた俺に母さんのか細い声がすぐ側の台所から聞こえた。
「何だよ…」
この声は母さんの心配する時の声だ。
その言葉の先が何となく分かってしまって俺は少し不安になる。
「友達……とか仲良くしてる?」
きた。
思った通りだった。
俺は平常心を保てるように浅く深呼吸をして明るく振る舞う。
「やだな、んなのあたりまえだし」
俺の声は震えてはないだろうか。
「そっか…そう、よね。ごめんごめんお母さん変なこと聞いて」
「ははっ心配性だなぁ」
心配なんてしなくていーよ母さん。
俺なら大丈夫。
大丈夫だから。
悪く言われるのは慣れっこだから。
俺ぐらいなんか言われるのなんて何でもない。
でも、
俺は心の底からは笑えない。
母さんが心配そうに見る目に安心してと心の底から言えない。
ごめんな母さん嘘ついて。
こんな息子でほんとごめんな。
ごめん。
ごめんなさい。
もっと明るくて皆から好かれるような息子になれなくてごめんなさい。
風呂に入ってお湯に浸かるとあの教師の言葉が浮かんでくる。
『なんかほっとけねぇもん』
「ほっとけねぇ……か」
ぽつりと思い返して呟けば風呂場特有にやけに響いてしまう。
そう俺に言った岡場の表情が脳裏に焼き付いて、こびり付いてどうしても離れなかった。
(なんで俺なんか……)
おまけに分かってたんだな、俺が壁作ってんの。
そっちの方が重要な気もするのに嬉しいという感情が出てくる。
俺、多分知って欲しかったんだな。
誰でも良いから。
そして、岡場は解ってた。
俺がそうやって1人になりたがっていること。
自分の顔を手で覆って深く息を吐く。
よりにもよってあいつ。
担任だから生徒のことを思うのは当たり前だと思うが。
岡場は担任としてだけじゃないって…。
明日どうしよ……とか考えてしまうと霧がないのでとりあえずいつものペースで乗り切ってやろうと心に決めるのみ。
はぁ、憂鬱だ。
そして俺の衝撃的1日は終わる。
これからが本番だというように月は真ん丸で宝石のようにきらきらと輝いていた。
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