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ppppp――。
空が紫色とオレンジ色を交ぜた頃、そいつは突然騒ぎだした。必死に鳴いて忙しなく震え、ガラステーブルをカタカタと揺らしながら着信を伝えてくる長方形の薄いやつ。
ふざけんなよ……起こされたじゃねーか。
安眠邪魔することなかれ。
空気に切り込みを入れるように布団から手だけを伸ばすと、その冷たさがダイレクトに伝わってきた。その空気を混ぜるように手探りでスマホを探した。
12月24日。クリスマスイブ。ここ数日、あちこちに蔓延るデコレーションが景色を賑やかにし、人も街も浮かれているのが視覚的にも分かる。そして夜になればその景色はイルミネーションで煌めき、それはそれは幻想的な空間を生み出している。
俺だって恋人持ち、所謂リア充だ。そいつと一緒にそんな街中を歩きながら、心をときめかせたいと思わなくもない。いや実際凄くときめかせたい。別にデコレーションもイルミネーションも興味はない。でもそこにある浮かれた空気、非日常を好きな奴と共有したかった。しかし肝心のお相手は仕事に駆り出されている。
夜には身体が自由になると聞いていた。だからアイツが帰ってくるまでは布団から出ないと決めていた。寒さから逃げたいのが半分、ふて寝がもう半分。例え今みたいに着信音が鳴り響くような事態になっても、どうしても布団から出たくない。だから苦肉の策として、こうして空気に触れる体積を最小限にして事を済まそうとしている。
無駄な体力も使いたくねぇし。
カツンっと冷たさが指先に触れれば見つけたも同然。寒さに震えているように未だ鳴り止まぬそいつを勢いよく掴んで、すぐさま暖かな布団の中に手を戻した。
表示されている名前は予想していた通りで、でもこのタイミングで掛かってきたことにちょっとヒヤッとした。遅くなるのか、それとも……。
ほんのちょっとの時間で冷えきった指先が画面に触れると、通話時間のカウントが始まった。ゆっくりと耳に当てると、サァーっという音だけが聴こえてくる。
『出ないかと思った』
暫く続いた沈黙をふわっとした暖かな声が破ってきた。機械音独特の冷たさと混ざって、その距離を突き付けてくる。
「安眠妨害で訴えてやる」
苛立ちを込めて返すも、ふふっと空気の音が機械を通って耳に届くだけだ。暖かいのに、冷たい。
『蒼斗、この時間まで寝てたの…?』
「うるせーな……お前と違って暇なんだよ」
『じゃあ今から来てよ』
「……は?」
誰が? 何処に? なんで?
ふわふわなのは声だけにしろよ、と思わず溜め息が零れた。こういうのは深く考えずに流すに限る。
「意味わかんねぇ……切るわ。じゃーな」
『うん、地図送るから。待ってるね!』
ブツッ……。そして数秒の沈黙。
待て待て待て待て。何処に『待ってるね!』ってなる要素があった!? おかしいだろ。なんなんだアイツ……人の話聞いてねーのか!?
理解に苦しんでいると、ピコンッという音とともに、見つめていた画面に「波瑠が画像を送信しました」と表示された。
送られてきたのは地図だった。アイツが今日撮影で使っているのであろう場所がピンされている。ここからあまり遠くない、撮影スタジオだ。
俺も一度使ったことがあるから、まぁ行き方は分かる。が、今から行くというのは……。
地図とにらめっこすること数秒。寒さより、夜まで待たずにアイツに会えるということが勝利を納めた。布団から出ると、全身を冷気が包んでいくような気がした。
くそっ……。
コートとマフラーを身体に引っかけ、スマホと財布を持って、勢いそのままに寒空の下へと扉をあけた。
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