アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
春の章一 風光る
-
「何? 遊命、有名人なん?」
「おぉ、こいつはなぁ、オリンピックに一番近い男だ」
「へぇ~、そうなん?」
「出ないよ」
「何故だ?! おまえならフリー枠でもいける! 何なら嘆願書集めてやろうか?」
「いらない。余計なことするな」
「悪いことは言わん、出とけ。そしたら、多少成績が悪くても何とかなるから」
「おい、それが教師の言い種かよ」
「遊命、アホなん?」
可児が、遊命を覗き込むようにして訊いた。
「俺に訊くな」
「本人を目の前にして言うのも何だが…要努力だ」
「言うなよ」
「アホなんや」
「うるせぇな」
「そうだ。おまえら知り合いなら丁度いい。可児、田崎に勉強教えてやれ」
「俺? えぇねんけど」
「何? 可児って勉強できる人?」
今度は遊命が聞き返した。
「おぉ、この学校の偏差値を、一人で上げてる男だよ」
教師は、遊命に興味を持ってもらうためか、殊更大袈裟に比喩した。
「へぇ~」
「じゃ、可児、担任にも伝えとくから、田崎のこと頼むな」
「はぁ……」
「遅くなるから行け」
教師は、片手でしっしっと二人を追い払うと、事務棟に帰っていった。
「何なんだよ。勝手に呼び止めといて、早く行けって」
「ホンマやで」
二人は憤りながら、再び歩き始めた。
「なぁ、偏差値って何?」
遊命の質問に、可児は思わず転けそうになった。
「……まぁ、学校の平均点みたいなもんやな」
「……へぇ」
遊命は、どっちつかずの曖昧な返事をした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
16 / 115