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春、眠れない
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長い一日だった。いや、長い半日?自宅に戻ってシャワーを浴び、寝巻きに着替えてベッドへ倒れこんだ瞬間にそう思った。
酔いは醒めているようで、数時間前までの出来事が全て夢だったようなおかしな感覚がある。
明日も朝早いし、と目覚まし時計をセットして布団をかぶった。
数十時間眠り続けたかのような倦怠感に目を覚まして時計を見ると、まだ一時間も経っていなかった。寝返りを打つ。枕に顔を埋める。喉が渇いたように感じたので台所に行き、コップに水を注ぐ。ゴクゴクと一気に飲み干す。ベッドへ戻る。目を閉じ、深く息を吸い込み、吐き出す。
…眠れない。
もともと一度目を覚ましてしまうとなかなか眠れない質なのだが、さすがにまだ一時間も寝ていない上に明日も仕事がある。寝なくては、と焦るほどに目が冴えた。
原因は分かっている。今朝の悪夢。田口の何気ない発言。後悔とは言えない程度の、思い出したくはない過去。
高校時代の祐樹は、同年代の他の人達と比べると素直な方ではあった。ごく一般的な家庭で、父母に可愛がられて育ち、歳の近い兄、少し離れた妹とも仲良く暮らしていた。特別優等生だとかすごい特技があると言うわけでは無かったが、学校や塾では男女問わず人気も高かった。
大学に入った後もそれは変わらず、友人には恵まれた学校生活だった。日本では、と自分で文の先頭に付け加えたくはなるが。
高校時代の祐樹が誤った選択をしたとすれば、特にやりたい事が無かったので適当に大学を選んだことだ。
将来したい事がわからない、と正直に担任の先生に相談した。四十代前半の女性の教師で担当科目は国語であったが、若い頃には世界中を旅したというパワフルな人間だった。
『やりたい事がないのなら、もっと広い世界を見てみるべきかもね』
広い世界。都内で生まれ育った祐樹にはどこか田舎に行くという考えも過ったが、担任は全員留学のカリキュラムを売りにしている都内の私立大学を勧めた。
『ここの大学の国際教養学科、あなたに合ってるんじゃないかしら』
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