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【終章】4
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・・・・・
そう言って微笑む君に報いるすべを、私は知らなかった。
だからすぐには言葉が出ない。
こちらにしてみれば、夫婦であることが前提の関係だったから。
しかし思い返せば君はいつでも努力をしていた。
来る日も来る日も何だか奇妙な方法で知識を得ては、よい妻であろうと頑張っていた。
務めを果たそうと、愛されるため小さな身体で無理をして、傷ついて......。
そんな姿を、私はひとときでも呆れ顔で見ていたんだな。
馬鹿な男だ。
この上ない人に向かって――。
私はひとつ呼吸をおくと、まっすぐに君を見た。
「ずっと一緒にいてください」
*****
大佐の言葉を聞いた王子様は、一瞬だけ困ったような表情を浮かべた。
瞳を泳がせると、小さくコクリとだけ頷いてみせる。
なんとなく歯切れの悪いその様子に、大佐自身思うところがあったのか、多くは求めずにそのまま手を繋いでゆっくりと歩きはじめた。
やがて祭りの出口に差し掛かろうという頃。
何かを見つけた王子様が「あっ」と声を上げた。
「どうした?」
「ソウゲツ、あれ見て!」
王子が指をさしたのは「射的」だった。
祭りの華とも言えるその出し物にはそれなりに人が集まっているようだったが、彼が注目したのは赤い雛壇の最上段に置かれた目玉の景品。
その名も......。
「すごいよ! ペレのサイン入りボールだ!」
王子様は大興奮で叫んだ。
ペレと言えば、言わずと知れたサッカー界のレジェンド。
地球では神様とさえ呼ばれた往年のスター選手だが、火星においてもその人気は絶大らしい。
サッカー好きの少年にとっては喉から手が出る一品だ。
「いいなあ......」
指をくわえる王子様に、大佐は口角を上げて頷いてみせた。
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