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イジメって何?(3/14)
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俺の表情を見ながらビクビクとハンバーグ弁当を食べる昴を横目に、俺はメロンパンにかぶりついてゆっくり食べる。
紙パックの野菜ジュースを飲み干すと、昴が気前良く詳しく学校を案内すると言ってくれた。
「……んで、ここが体育館。ここまでは分かった?」
「…何となく。あ、生徒会専用の屋上は?」
真知先輩の約束を思い出し、さりげなく聞くと昴がギンッと目を鋭く光らせた。
「何?何でそんな場所気になるんだよ、真琴…?」
「べ、別に気になるとかじゃねぇよ。ただなるべくそこに近づかないようにしようと思って…」
怖いよ、昴。
そんな怪しむ目で俺を見つめてこないでくれ。
昴は若干不服そうな表情をするものの、案内してくれた。
「ここだよ。……会長とか副会長とかいるかもしれねぇから絶対近づくなよ」
「え、ああ…」
どうやら他の生徒達はあの屋上が真知先輩の独占地帯である事は知らないようだな。
屋上の場所は覚えたし、これで気がかりな事はない。
また広い校内をぐるっと歩き回り、莫大な量の場所を懸命に頭に叩きこんでいく。
「疲れた……この学校広すぎだろ」
「大丈夫か、真琴…?」
「何とか。これで一時限目が体育とかだったら死ぬけど」
「真琴……残念な話だけど、今日は朝から体育だ」
「……」
まじかよ……。
腰掛ける場所を見つけ、少しだけ休憩をする。
「そういや、昨日カードを取りに戻ったとき、伊坂が…」
「伊坂……?誰それ」
「担任だよ、担任」
「ああ、あのホストね。で、何て言ってたんだ?」
「教科書とか体操服とかを廊下のロッカーに入れといたから使えって」
「そ、さんきゅ。ロッカーどこにあんの?」
「廊下。一番左端のロッカー」
「ふーん……」
後で教科書とかに名前書かないとな。
フゥとため息をつくと横に座ってた昴が立ち上がる。
「大体の場所は案内し終えたし、そろそろ教室行こうぜ。分からなかったらまた聞いてな」
「あ、うん」
登校時間になったのか、廊下を歩く生徒達の姿がちらほら見える。
重い腰を上げ、昴と一緒に教室へと足を進めた。
「…………昴、この有様は一体何だ…?」
自分のロッカーの前なう。
教室に入る前にロッカーを開けて中を見てみると、紙クズが沢山入っていて、おまけに新しい教科書達がビリビリ引き裂かれていた。
「おお……」
え、何これイジメ?
まさかのイジメ?俺初めてだよ、こんなの。
ちらっと昴の顔を見ると、険しい表情でロッカーを見つめている。
その怖い表情を見て一瞬口から心臓が飛び出しそうになったが、抑えて控えめに声をかけてみた。
「…昴、とりあえず教室に入らねぇ?」
そう言って教室のドアをガラッと開いて中に足を踏みいれると、教室の中がざわっとどよめくのが分かった。
ひそひそと噂話が飛び交う中、自分の机へと足を進めていく。
うーん……。
机もロッカーに劣らずものすごい事になってるなぁ…。
「……っのやろー…」
「うわ…っ、ひびった。昴、んなかっかするなよ」
「怒って当然だろ。真琴も真琴で何でそんなすっとぼけた表情してんだよ。人事じゃなくて自分にやられてんだぞ!」
「まあまあ、もちつ…いや、落ちつけ。にしてもこんな漫画みてぇなこと現実であるんだな」
机の上にビリビリと引き裂かれた紙クズ。
そしてマジックによる落書き。
「真琴……!」
何も言わない俺に痺れをきらしたのか、昴が俺の肩を掴んでくる。
「分かってるって。でもこんな事されるのは俺に原因があるって事だろ。俺も悪いんだよ」
「真琴が悪いはずないだろ、何もやってねぇのに」
「理由も無しにここまでする人いないから。
俺だって心当たりがねぇよ。俺のほんの些細な行いがその人を傷つけたのかもしれないな」
「そんなのおかしいだろ…。くだらないことでここまでやるのは」
「俺達にとってはくだらない事でも、その人にとっては一大事。反対に俺達にとって一大事な事はその人にとってくだらない事もあるだろ」
床に散らばっている紙屑を拾いながら昴と話す。
……ん?これ教科書の紙っぽくないか?
もしかして……俺のですか?
「…結局、形を持たない心の中の基準ってみんな違うから、理不尽な事があっても仕方ないだろ。
相手の立場になって考えるのも大事だ」
……って旦那が言ってた。あの人超絶かっこいい。
俺、旦那の武勇伝だったら一日中…いや、10分位なら語り続けられるぞ。
「それに“理不尽“って理由かこつけて向き合おうとしないへっぴり腰な男にはなりたくねぇし。
自分にも非があるって事は認めるよ」
俺がそう言って昴の方を見ると、本人は不安げな表情で見つめ返してきた。
「無理とか…してねぇの…?強がったりとかしてないよな?」
「んー…昴がいてくれたら安心かな」
そう言うと昴は少し頬を緩ませて手を握ってきた。
「俺、真琴の味方だから」
「さんきゅ。にしても、俺……いくら考えても思い当たる事ないんだよね」
男ならこんな面倒でみみっちい事しないで口で言ってこいよ。
あと一つ怒りたい事がある。
「除去液でマジックってとれるのかな…」
机とロッカーに落書きされたマジック消さないと。
「え?」
「俺の持ち物に八つ当たりするのはまだいい。
教科書は(勝手に)昴のを一緒に使わせてもらうし。
でも机やロッカーは公共のものだぞ、学校の……!」
「え、あ、うん。…って俺の!?」
「お前のものは俺のもの。
話戻して、俺が卒業したら使ってた机やロッカーは新入生が使うだろ。
そこらへんしっかりわきまえろって思う」
「お、おう…、つか…そこ?そこで怒る?何かツッコミどころありすぎるよ真琴…!」
「あ?俺、常識はずれな事言った?」
「いや…何にも…」
昴をひとにらみしてから机の方をちらっと見てため息をつく。
何か色々面倒になりそうだ。
平穏な生活を送るのは…やっぱりもう絶対できないだろうな。
まぁ、そんなショックな話は置いといて。
「除去剤、どこかにないかな」
除光液的な。小さい声で呟いていたところ、名前の知らないクラスメートが俺に話しかけてきた。
「大崎……だっけ?それなら保健室にあると思うよ」
「え?あ、あぁ、さんきゅ」
何故に俺の名前を覚えている…?
「えっとな、担任の伊坂が昨日お前にばっかり問題当ててただろ?だから自然に覚えたというか…」
「あ、へー…そう」
やべ、また思ってる事が口に出てたみたいだな。
にしても…あのホストやってくれたな、あんにゃろう。
「昴ー、俺保健室に除去剤取りに行ってくる」
「場所覚えてんの?気をつけてな」
「ああ。今回はえらくすんなり行かせてくれるんだな」
「だって保健室には手を出してくる保健医がいないから、む腐腐な展開にならねぇしフラグは立たないはず。だから安心」
「はぁ…?じゃあ行ってくる」
時々昴って意味わからねぇこと言うなぁ…。
初めて会ったとき宇宙人かと思ったし。
あと昴とは昨日会ったばかりなのに、ずっと前から知り合ってたような気分になるな。
人懐っこいからかな…?
中型犬みたいな。
大型犬はワンコ先輩。
そんなことを考えながら保健室へと足を進める。
…お、あったぞ保健室。
ノックをし、小さな声で「失礼します」と言ってドアをガラッと開ける。
「……れ?誰もいねぇ」
そう呟くとカーテンで仕切られたベッドがぎしっと軋むのが聞こえた。
わ、誰かいたのか。
「誰だ、朝から。怪我か?それとも風邪か?」
「え……」
シャッと開かれたカーテンの奥にいる人物を見て思わず声を上げる。
「ホスト……?」
「あ?…真琴か」
「何で先生がここに……」
「お前こそ何の用だ」
質問を質問で返すなし。
「そんな怒った顔するな、真琴。俺はただここで仮眠していただけだ。保健医に用があるなら職員室に行けよ。いつもそこにいるから」
「いや、あの、えっと」
「何だ?」
「除去剤を探してまして……」
「除去剤?何に使うんだ」
「何って、その……あは」
愛想笑いを浮かべてごまかそうとするとホストが顔をしかめた。
「どうした、言え」
「ちょっと野暮用で」
「その野暮用ってなんだ」
「先生に教える筋合いは無いし」
「何だとこら…!」
口をなかなか割ろうとしない俺を怪しんだのか、ホストがジーッと見つめてくる。
そんな目で見てこないでください。
それに……男と長い間見つめ合うとか生理的に無理。
ぷいと目を逸らすと、ホストがため息をついて頭をかいた。
「真琴、こっちに来い」
「はぁ…」
仕方なくベッドの端に座るホストに近づく。
…が、近づいた瞬間腕をぐいっと引かれてベッドの上に放りなげられた。
「ぎゃあぁっ!?」
「よし、捕獲」
ホストはそう言うと俺の両腕をガッと掴んで押さえ込んだ。
背中が白いシーツに沈み、スプリングがぎしっと軋む。
あばばばばば、俺今男に押し倒されてるお!
何かやばくないか…!?
「…ったく、最近のガキどもは意地っ張りな奴が多いんだからよ」
「は、離せこんにゃろ…っ!」
「わ…っ、てめ…、危ねぇな」
膝でホストの股間を蹴り上げようとしたが防がれる。くそ…っ。
男に押し倒されて、上から見下ろされんのがこんなに屈辱に感じるとは。
やっぱり俺、男は無理。
モホに偏見はないが俺は絶対無理だ。
「お前みたいなノンケの奴にしか、この脅し効かないんだよな。他の奴らだと逆に喜んじまうし。
さあ、真琴吐け。言わねぇと…ヤるぞ」
「ひいいいい…!」
どんな脅し方だよ、それ…!
ていうかただの脅しなんだろ?
じゃあ、
「言いません」
俺がそう言いきると、ホストが一瞬面食らった顔をする。
が、チッと舌打ちをすると俺のネクタイに手をかけてきた。
「男の抱き方あんまり詳しくねぇーんだよな。ちと乱暴になるかもしれねぇが…覚悟しろよ」
「あ、ごめんなさい言います言います。絶賛公開中です…!」
どうせ俺は軽くてへっぴり腰な男だよ!
ホストの言葉に焦り思わずそう言ってしまうと、本人は「よし」と言って離してくれた。
「……で、どうした」
「実はその…かくかくしかじか」
仕方なくぼそぼそと話し始めると、ホストは耳を傾けながらタバコに火をつける。
おいおい、副流煙は主流煙より有害物質が多いんだぞ。
それくらい分かってるだろ。
ていうか何気に肩に腕を回さないでいただきたい。
全てを言い終えると、ホストはフッと笑って俺の方を見た。
「転校してきたばかりなのに大変だな、お前は」
「はぁ…大変…?なんですかね」
「いい機会なんじゃねぇの、お前にとってみれば」
「は…?」
「他人と関わり合う機会が増えんだろ」
……この人……。
「先生、もしかして俺に授業中しつこく問題当ててきたのもそのためですか?」
「お、察しが早いな。まずはクラスメートにお前の名前と存在を覚え込ませてやろうと思ってな」
「……」
意外に教師の型ついてるなぁ…。
「そんな嫌そうな顔するな。
仲いい奴とだけべったりだと後で辛くなる。たまには慣れない人間とも付き合わなきゃな」
「そんな事…知ってます」
「知ってるだけだったらダメだ。行動に「移さなきゃいけないんでしょ。これからは怖がらず、他人と接していくつもりです」
昨日、学んだことだから…。
きっと旦那や昴達みたいな良い人も沢山いるはず。もっと視野を広げて生きていきたい。
「…一日経っただけで変わったな。友達100人目指してみたらどうだ」
「何ですか、その小学生の考え方…」
「夢は大きく、だろ」
「それも確かに大事ですけど…人数多ければいいってものじゃないでしょーが。
俺は一人一人の個性を受けとめて大切にしていきたい」
ホストの目を見てそう伝えると、本人は少し驚いたようにまばたきをした。
「お前…惚れるような事さらっと言うんだな。天然タラシか」
「はぁ!?」
旦那と同じ事言ってきやがって。
俺がいつ甘言や色仕掛けしたっていうんだよ、こんにゃろ。
「まぁ、それはともかく」
「……?」
「生徒同士のケンカ程度の事には、なるべく手を出さない主義なんでな。何でも大人が口酸っぱくでしゃばりゃいいってものじゃねぇし」
ホストは何もない空間にふー…と煙を吐き出すと俺の方を見た。
「まず自分で何とかしてみろ」
「そのつもりです」
「…まぁ、無理はするなよ。特にお前みたいに抱え込む奴は。
手に負えなくなったら相談してこい。いつでも助けてやる」
「……はい」
相槌を打ってから、あ、と声をあげて言葉を付け加える。
「かっこいいですね、先生」
「ごほ…っ、はあ?」
「ちょっと見直しました。昨日生徒達に対してふしだらな発言をしたのを見たから、てっきり不良教師かと思ってました」
「おま…っ」
「やっぱり表面を見ただけで勝手に"こーゆう人"と決めつけるのはダメなんですね、内面を知るまでは。
大事な事教えてくださりありがとです」
「……褒めても何もでねぇよ」
ホストは少し照れくさそうな表情をすると、そっぽを向く。
その様子を見て俺は頬を少し緩めると、追い打ちをかけるようにまた言葉を付け加えた。
「軽そうに見せといて、実は真面目で誠実。格好良いです」
「こら、真琴…!大人をからかうな」
「さーせん」
片頬に朱を滲ませて怒るホストに悪戯っぽい笑みを見せ、ベッドから下りる。
薬品棚は……あ、あの棚か。
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