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たからもの(2/3)
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「何故そんな大切なことを早く話してくれなかったのですか!?」
「えぇっ!?」
「…祝う…じゅ…び…、でき…ない……」
「祝う…!?そ、そんなのいいですよ」
「いいわけありません!」
「だって、自分から言うのって、おかしくないですか…?」
「おかしく…、ない…!」
副会長は俺の肩をがしっと掴み、優先輩は俺の手を握って訴えてくる。
自分の誕生日を祝ってもらうなんて、身内と千尋さんにしかしてもらったことがない。
普通は自分の誕生日、言っておくものなのか?
友達にも…?
先輩達に別れを告げたあと、そんなことを考えながら寮の部屋へ戻る。
「ただいま…」
と呟いてみると、凪が「お帰り!」と言って飛びついてきた。
「わ…っ、お前起きてたのか?」
「うん。今起きた」
「へぇ……って、昴…?」
ニコニコ笑う凪の背後に、般若のような顔つきの昴が迫る。
「おい、西條!!てめぇ人の腹踏み付けるんじゃねぇよ!」
「通り道に芋虫のように寝転んでる奴が悪いんじゃん」
「避けて通ればいいだろーが」
あー…二人とも朝から元気だなぁ…。
ふぅとため息をつくと、昴が俺のほうを見た。
「制服…?どっかに出かけてたのか?」
「まぁ…。……なぁ、昴」
「何?」
「普通、友達に自分の誕生日って言うものなのか?」
昴の目をじっと見つめて問う。
…友達に、どこまで自分の事を話したらいいんだろう?教えてほしい。
返ってきたのは、力強い頷きだった。
「もちろん。大事な人が生まれた日をちゃんと祝いたいし」
「……、そっか…」
"大事な人"か……嬉しい。
今周りにいる人達は…あったかい気持ちを沢山教えてくれる。
頬を少し緩めていると、凪が後ろから抱きついてきた。
「……重いぞ、凪」
「真琴の誕生日はいつ?俺、真琴が大好きだからちゃんと祝いたい」
「……明日」
一言呟くと、さっきの先輩達と同じ反応が返ってくる。
これからは大事なことは事前にちゃんと言っておこう。そう思った。
……学校に登校すると、"明日が俺の誕生日"という情報がある人にも伝わっていた。
「君、明日誕生日なんだって?」
昼休みの屋上で、真知先輩がレモンティーを飲みながら聞いてくる。
「え…なんで知ってるんですか?」
「優から聞いたよ。君の誕生日は盛大に祝いたかったのになぁ。困った子だねぇ、君は」
「すみません…」
「……何か元気ないねぇ」
「……」
「話してごらんよ」
「え…「話さないとキスするよ?」は、話します」
腰を下ろした後、足元を見ながら今の気持ちを口にする。
「…こんなに誕生日を祝ってくれようとする人がいるなんて…味わったことがなくて、嬉しかった。みんなは俺に沢山の"初めて"をくれる……」
息が詰まりそうなもどかしい気持ち。あったかくて泣きたくなるような気持ち。
「何か、もらってばかりだな…と思って。
俺はみんなのために何ができるんだろう…?って思ってたんです」
「…君、やっぱりバカだねぇ」
真知先輩は真顔で俺の発言を一刀両断する。
むっとして眉をしかめると、真知先輩が俺の顎に指をそえて顔を近づけてきた。
「常にお返しをする必要はないんじゃないかな。…“無償の思いやり”に対価を払う必要はないよ。
ただ素直に受けとめればいい」
真知先輩はそう言うとふっと微笑した。
「……けど…」
「それでも気持ちがおさまらないなら、自分がされて嬉しいことを相手にしてあげればいいんじゃないかな」
「…俺がされて嬉しいことを相手に…」
そっか…。
ちょっと前の俺は、まさかこんな事で悩むなんて、思ってもいなかっただろう。
閉じこもって、狭い世界で満足していた。 広い世界を知ってしまった今は、もう戻れない。戻りたくない。
広い世界は嬉しい感情に沢山出会えるけど、辛い感情とも出会ってしまう。
それでも、今の広い世界が好きだ。 辛いことから逃げて狭い世界に身を潜めてるよりも、"生きてる"って事が強く感じる。
「俺……も、みんなが誕生した大切な日と出会えた奇跡を祝いたい…です」
「ふふっ、出会った奇跡も祝ってくれるのかい? 君は初め、僕らをうっとうしく思ってるように感じたけどなぁ」
「そりゃ…最初はやかましい人達だな、と思ってましたけど…」
「…正直だねぇ」
「すみません…。でも、変えてくれたから……だから、皆さんのことが…………す、…好きです。ちょっとだけ」
「よく聞こえなかったなぁ。もう一度言ってくれない?」
うそつけ。絶対聞こえてただろ。 にやけ顔で見ないでいただきたい。
何か…恥ずかしい気持ちになる。
「す…好きと嫌いの半々です」
「えー…?さっきと言ってる事が違うじゃないか」
「…やっぱり聞こえてたんですね」
「あはは」
初めて真知先輩から一本とれた昼休みだった。
自分の教室に戻ると、凪と長沢が昴の席の近くに集まって話をしていた。
またか……いつの間に仲良くなったんだ、あの三人?
「……ストーカーし隊?」
「俺と三橋の二人で結成した」
「チワワくんもヤら…じゃなくて、入らないか?」
「うーん……僕が思うに、いっそ大崎の親衛隊を結成したらどうかな…?」
「なるほど……チワワくんいいこと言うな」
「あ、あの…三橋、僕の名前はチワワじゃなくて長沢……」
「……!真琴だ!」
俺が歩み寄ると、凪が一番に気がつく。 凪って……何でいつもこんなに早く反応するんだろ?
「真琴、俺が座ってた席に座って。真琴のために温めておいたから…」
「断る。俺の尻はそんなにやわじゃない。案ずるな」
凪の誘いを断り、知らない人の椅子を借りて座る。
「真琴」
「何、昴」
「今、この三人で真琴の親衛隊を作ることにした」
「……はぁ!?」
何故、と聞く前に昴が立ち上がって「真琴の親衛隊員1号!」
と宣言した。 てか"号"って…なんぞや。
「じゃあ俺、2号!」
「えっと、それなら僕は3号かな」
「……!?」
凪と…長沢まで…!? いやいや長沢くん、君は好きな人の親衛隊員になったほうがいいんじゃないか…?
「てかおい、親衛隊ってなんだよ…!?急にどうした?俺がここに来るまでに何があった…!?」
軽いパニック状態なう。
「親衛隊つーか……真琴のことが好きっていう集まりだな!」
「昴……」
お前、笑顔も可愛いよ。 今朝の寝顔に負けないくらい。
「俺も真琴のこと大好き!」
「おう…」
凪の気持ちは、その激しいスキンシップから察してる。 凪は俺が男だろうと女だろうと関係ないって感じが…。
「僕も、…大崎のこと、好きだよ…?」
「長沢……でも、お前…」
「僕……真琴の親衛隊に入隊したら……ダメ…?」
「……ッ」
こてんと首を傾げた長沢が上目遣いで俺を見てくる。
ぐ……っ、やべ…。
「ぜ、全然いい。てか、……嬉しい」
「大崎…」
可憐な花のような笑顔を咲かせる長沢。 すげぇ可愛い。
「やだ、そんな真琴見たくない。男みたいで嫌だ……!」
「いや…昴、男みたいじゃなくて俺、男だから」
つーか……親衛隊って、
「主に何すんの?」
「例えば休日の真琴をストー…むぐっ!」
「真琴をとにかく愛でるんだよ!」
昴は凪の口を手で塞いで笑いかけてくる。
…何か苦しそうな笑顔だな。
愛でる…か…。
だったら俺も三人の親衛隊を……いや、この三人のことだ、とっくの前に親衛隊があるんだろう、きっと。
「……俺なんかを愛でて楽しい?」
「楽しいよ!隊員と話し合うことで色んな真琴を知ることができるし…」
凪はふっと笑って俺を見つめてくる。
おふ…、何か寒気が…。
「知ってもらえるのは嬉しいが、ストーカーはやめろよ、凪」
俺が凪に向けて言うと、何故か昴と長沢もビクッと反応した。
「……何?どうした?」
「い、いや、何でもないぜ!」
「あ…僕、授業始まりそうだから自分の席に戻るね!」
「…俺も」
凪と長沢はそそくさと去っていき、俺と昴だけがその場に残される。
「……何だ?あいつら…」
「ま、真琴も座れよ」
「……」
三人の反応に疑問を持ちながらも、席に着く。
授業は数学だったから、昨日やった小テストが返ってきた。
「……92点か…」
「すげーな真琴!」
「いや、これ基本問題だから」
期末試験の結果はやばい。
応用問題になると意味分かんねぇ。
昴はホストからテスト用紙を渡されると、パアッと明るい表情をして席に戻ってきた。
「真琴!真琴!見てこれ!赤点じゃねぇ…!!
俺80点台初めてだ!」
「よかったな…おめでとう」
「おい、皆静かにしろ。とくにそこのバカ」
ホストは昴のほうを見ながら声を張る。
すると昴がムッとした表情でテスト用紙を掲げた。
「俺はバカじゃねぇ。バカはもう卒業したんだ」
「ふ…っ、次のテストはどうだろな。
点数悪かった奴、再テストやるぞ。30点未満だ。
バカな三橋でも解けたんだ、来週の月曜まで勉強しとけ」
「だからバカじゃねぇって…!」
何か…拗ねて怒る昴が可愛いなと思った授業でした。
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