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『じゃあ、借りるね』
マフラーを巻こうとした伊織の手を、湊がやんわりと掴み取った。
『湊……?』
「じっとしてろ」
戸惑いながら見上げると、湊の整った顔が間近に寄ってくる。
微かな香水の香りがする距離まで来て、ドキリと伊織の胸が飛び跳ねた。
伊織の動揺を余所に、湊の綺麗な指先が器用にマフラーを大きなリボンに結んでいく。
器用にマフラーを結ぶその指先に、伊織は見惚れてしまう。
「これでよし」
『ありがとう。でも、これ可愛すぎない?』
「可愛い伊織に似合ってんだから、いいじゃねぇか」
(ふふ、可愛いだって)
結んでくれたマフラーに顔を埋めると、湊の匂いと愛用している香水の香りがした。
(湊の匂いだ……)
まるで湊に抱き締められているような錯覚に陥ってしまいそうだ。
マフラーに顔を埋めたまま、上目遣いで湊を窺い見る。
湊のことを幼なじみとして好きではなく、恋愛としての好きだと気づいたのはいつからだろうか。
中学の頃は、勉強が出来てスポーツも出来る湊に憧れていた。
その一方で、今まで感じたことのない感情に戸惑ったこともあった。
たぶん、その感じたことのない感情が恋心だったと思う。
だけど、男同士で恋なんて出来ないと思っているから、僕はこの思いを伝えようとは思わない。
それは今の関係を壊したくないから…───。
湊に思いを伝えて拒絶されたら、きっと僕は立ち直れない。
だけど、この好きだと言う思い伝えることが出来たら、どんなにいいだろうか。
(湊、僕ね……湊のことが大好きなんだよ……)
内心で伝えることが出来ない思いを呟くと、胸の奥がさツキンと痛んだ。
「そう言や、伊織。数学の宿題やってきたか?今日、当てられる番だろ」
『うぅ…、やってきたけど自信ない。湊、お願い!ノート見せて!』
伊織が手を合わせて頼み込むと、やれやれと湊が眉を潜めた。
「しょうがねぇなぁ。後で見せてやっから」
『本当!?やったぁ!湊、大好き!』
手を叩かんばかりに喜び、伊織が抱きついてくる。
「タダじゃねぇからな。今日の昼飯、伊織の奢りな」
『うん、いいよ。持つものは優秀な幼なじみだよね』
自分で“幼なじみ”と口にして、胸がツキンと見えない感情に刺された。
幼なじみと言う関係が、恋人関係に変わったら、きっとこのような感情に苛まれることもないんだろうと思う。
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