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思惑.1(side.音川)
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与えられるものは、重要。
けれど、"それをどう扱うか"は、もっとずっと重要だ。
『カワイイ』
そんな外見を褒めそやす言葉は、多少形を変えはするものの、小さい頃からオレにずっとついて回った。
どこの誰ともしれない、名前すら知らない父親譲りの金髪に、色素の薄い、瞳。
いわゆる"オキレイ"な顔は、なにかと持て囃されて。
けれど一方で。
『視界に入るな、汚らわしい。養ってやってるだけでも、ありがたいと思うように』
ついて回るものは、綺麗なものだけでも、なかった。
高貴なお家には、漫画やドラマみたいに、ベタベタで、ドロドロの愛憎劇がうずまいていた。
オレの母親は、唯一の取り柄の顔を存分に利用して、見事金持ちの愛人に収まって。
お荷物だったオレは、なんとも幸運なことに、そのおこぼれに預かれたってわけで。
幸運だけど、ぼんやりしてたら、悲惨なことになる、そんな気の抜けない環境に、最初は戸惑った。
けれど、身の振り方さえ学んでしまえば、あとはなんとも楽チンだった。
"親の愛情を求める"なんて殊勝さはハナから持ち合わせてはいやしない。
笑えない程度には危険で、けれど、無限の自由が与えられる、その環境は、オレにとっては最高だった。
そして、生来の要領のよさで、幼少期を乗り切ったオレは、"金持ち一家の身内"として最低限恥ずかしくない程度の教養を叩き込まれたあと、この学園に放り込まれた。
この学園は、金持ちの子息ばかりが集まる、箱庭で。
いっそ可笑しいほどに、権力と能力に、従順なやつらの群れだった。
そして、オレは、ここでも持て囃された。
憎悪や嫉妬だって勿論あったが、家にいる時より、ずっとなまぬるい。
『カワイイ』とか『綺麗』とか『カッコイイ』とか。
そんな上っ面を讃えるだけの、無意味な賞賛は、別に嬉しくもないけど。
使えるものは使って、貰えるものは貰っておく。
これは、オレの信条。
いかに美味しいとこどりをして生きられるか。
それだけが、オレにとって、重要だ。
だから、生徒会役員になったのも、なっておきながら、その仕事を放棄したのも、その方が"割りがいい"と思ったからで。
…………それ、だけだ。
「うーん……ふくかいちょーが離れちゃったんじゃあ、ちょーっと分が悪いかなぁ〜」
だから、他の奴らほど、思い入れも、なにもないわけで。
無邪気なお子様と、権力に執着しない王様。
どっちに着くかを決めるのは、そうすることで得られる"メリット"の大きさ。ただそれだけ。
………まぁ、ここでオレが離れたら、またメンドくさいことになりそうではあるけど。
となりで呑気に眠る、いつもは隠された金髪に指を通す。
柔らかそうに見えて、時節指に絡みつくそれは、持ち主の性格をあらわしているかのよう。
「ま、オレには関係ないけどねぇ〜」
近くにあった紙を置き手紙にして、部屋の外にでた。
「んじゃ、戻りますか」
パタン、と閉まった扉の向こう側。
『バイバイ』
その紙に並んだ文字を、暗い暗い蒼色が、静かに見つめていた。
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