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思惑.6
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「………………ん」
なんだか部屋の中が明るい気がして、パチリと目を開ける。
そして、愕然とした。
「………………あさ……?」
まさか、あのまま一晩中寝たのか。
信じられないことだが、カーテンから溢れる明かりは、何度瞬きしようと消えはしない。
ベッドの脇にある時計に目をやれば、時刻は5時すぎ。
いつもと同じくらいの時間に起きられたのが、せめてもの救いか。
悩んでいても仕方がないと身を起こそうとしたところで、違和感。
…………あたたかい?
そうしてふと隣を見れば。
「はぁ!?」
「ん……?なんだよ、うるせぇな……」
そこには、武川がいた。
「な、なん……!?」
あまりの驚きに口をパクパクさせていると、武川は薄っすらと目を開ける。
「あー…………、昨日あのまま俺も寝たのか」
億劫そうにそれだけ言うと、再び目を閉じる。
どうやら朝には弱いらしい。
朝はいつも先に出るから、知らなかった。
…………じゃねぇよ。
「はぁあああ…………」
頭を抱えて、ため息を吐く。
そうして見下ろせば、いつのまにか寝巻きに着替えさせられていたことにも気付いて。
羞恥と気まずさでどうにかなりそうだった。
ここ最近、自分で自分が制御できない。
ーーーーーそれが、恐ろしい。
「ため息つくな。それ以上幸せ零してどうすんだ」
先程より随分明瞭な声に振り向けば、武川が体を起こしていた。
「うっせぇ、ほっとけ」
「うわっ、まだ5時じゃねぇか……。お前いっつもこんな時間からおきてんのか」
「うっせぇ、寝ろ」
ふあぁと眠そうに欠伸をする武川を睨みつける。
すると、武川は愉快そうに口の端を吊り上げた。
「なんだお前、照れてんのか?まぁ、すげぇ雨の音にも気付かないくらい、熟睡してたもんな」
やっぱ疲れてんだろ。
そう続いた武川の言葉は、脳に止まることなく通り過ぎていく。
「…………………あめ?」
「あぁ、昨日あれからすげぇ雨降ってたんだよ。あんな大雨久しぶりだったな」
大雨が降っていたのに、眠っていた?
起きることなく?
気付きもせずに?
そんなこと、あり得るはずがない。
あって、いいはずがない。
心ここに在らずなのを感じ取ったのか、武川は怪訝そうに眉を寄せた。
「…………?どうかしたのか?」
「……なんでもねぇ」
「………雨が、何かあるのか?」
俺の返答はあっさりとスルーされて、そんな言葉を投げられる。
「だから、なんでもねぇって。しつけぇ」
混乱する頭を冷やそうと、シャワーに足を向ける。
「待て」
パシリ、腕を掴まれて。
「っ!?
は?なんでお前こんな、冷えてんだよ」
じわり、降下した体温に熱が浸透する。
その温もりが、あまりに違和感なくこの手に馴染むことに、焦りを感じた。
だめだ。このままじゃ、だめだ。
「ただの冷え性だ。いいからさっさと離せ。俺はシャワーを浴びんだよ」
ここ最近燻っていた、言いようのない不安感が唐突に明確な形をなす。
眠る前の、むしろそれ以上の不安が襲いかかってくる。
はやく手を離して欲しかった。
「……断る。
なんか最近お前、危なっかしいんだよ」
「だから、お前は気にしすぎなんだっていってんだろ。あと、もうそろそろ俺は自分の部屋に帰る」
自分の中の焦燥感にせき立てられる様にそう告げた。
焦りに、不安に、胸がぐちゃぐちゃになりそうだ。
はやく、はやく。
「は?なんでまた急に」
はやく、離れないと。
「もう体調も戻って、役員だってもうほとんど帰ってきてんだ。ここにいる理由がねぇだろ。助っ人も、もういい。3人いりゃ、もう充分回せる」
「は?だからって、なんで今」
困惑したような瞳に、泣きそうなほど感情を揺らされる。
腕から伝わる熱だけで、膝が折れそうになる。
「てめぇがいちいちうるせえからだよ。俺は俺のやりたい様にやる」
ーーーーどんどん、俺が、俺じゃなくなっていく。
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