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序章 1
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「俺が忍び込みます。」
俺がそう言うと、ざわざわと評議員達が騒ぎ出す。
皆険しい顔つきで、「無茶な」「そんな事をさせられない」と口を動かす。
「……駄目だ。お前は王子なんだぞ。立場を考えろ。」
一際通る声で辺りを静める。
声の主は、この部屋で最も豪華な椅子に腰かけた男。
ルーリア国ジャリック王、そして自分の腹違いの兄だった。
厳しい顔つきで睨みつけられると、その威厳から少しばかり怯んでしまう。
しかし、ここで諦める訳にはいかない。
「…勿論自覚しています。ですがどう考えても、適任は俺しか居ないはずです。それは陛下も分かっているはずです。」
ルーリア国は、今魔王軍との戦争真っ只中だった。
まだ王都には攻め込まれていないものの、国境付近は既に破られていた。
そこには運の悪い事に、ルーリア国の巫女姫様がいらっしゃった。
突然の魔王軍の進撃により、体制を整える暇もなく国境は崩れた。
魔王、魔族は突然湧いて出たのだ。あっという間に国境を根城にし、ジワジワとルーリア国にプレッシャーをかけて来ている。
しかも巫女姫を人質に取られており、下手にこちらから攻撃するのも憚られた。
俺は王位継承権は第5位になっている。
まだ17という年齢のため、特に大きな立場についているわけでも無い。
つまり、死んでも特に国に大きな問題は出ない。
更に王族は、一般の人物より魔力が高い。魔族は魔力の塊のようなものなので、人間にはその3分の1程度しかないと言われている。王族は一般よりも倍の魔力を有しており、その力は強大だ。
俺も勿論魔力が強い。だが、俺の場合は兄上達よりも魔力が高くーーもはや魔族よりも高い状態だった。
しかし俺は魔力を外に出すことが出来ない。魔法も当然使えない欠陥品。
溜まりに溜まった魔力は暴発しそうになってしまうため、いつも巫女姫に魔力を抜いて貰っていたのだ。
…しかし巫女姫は今魔王軍の中心にいる。俺は国の為にも、自分自身の為にも早急に巫女姫を救い出さなければならなかった。
幸い魔力が高すぎる俺は、人間の姿でなければいくらでも魔族に紛れることができる。
そこら辺の魔族を狩って毛皮を被るだけでいい。
「…お前は魔法が使えない。戦えないのだぞ。」
更に兄上の顔が険しくなっていく。
兄上は俺を嫌ってはいない。むしろ腹違いだというのに、昔からとても可愛がってくれていた。
兄上だって俺を行かせることが最善策だと分かっている。
きっと行かせたくないから、もっともそうな理由を付けて阻止しようとしているのだろう。
その事が俺には、涙が出そうになるほど嬉しかった。
「俺は魔力が使えないと分かってから、ひたすら戦う術を身につけてきました。容易に殺されたりはしませんよ。」
俺は笑ってみせたが、周りのもの全員が強がりだと思っただろう。
「…わかった。メルビス・リエタ・ルーリア。巫女姫奪還を命ずる。」
ジャリック兄上の低い声が会議室に響き渡り、評議員の皆も心配そうな、しかし勇敢な者を讃えるかのような顔で俺を見る。
「国王陛下の御心のままに。」
俺は礼をした後、失礼します、と言って踵を返した。
「…メルビス、必ず帰って来い。」
兄上の優しい声が後ろからかかった。
何でもう、皆いるのに。
「ジャリック兄上こそ、ちゃんとここを死守しといて下さいよ。兄上の奥さんは必ず助け出しますんで。」
俺は振り返らずに手だけさらさらと振った。無礼極まりないが、ここには咎めるような者は誰もいなかった。
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