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子供が持てない悲しみはよくわかるし、相手に申し訳がないと思う気持ちも痛いほどに理解ができた。自分たちも同じだったからだ。
養子縁組をしようと決めるまで、幸樹と何度も話し合った。愛する人が子供を持てない未来をすんなりと選ぶことができず、ずいぶんと悩んだ。けれど幸樹が何度も「おまえさえいればいい」と言ってくれたから、彼とふたりだけの未来を選んだのだ。
それが今は……信じていた未来は消えている。これから歩むべき道が、立ち込める濃い霧によって見えない状態だ。
「素敵なご主人ですね」声が震えないように気をつけた。羨ましい。そして、恨めしい。個人は個人だ。自分と重ね、比べるべきではない。そう思っているのに胸が冷える。
「ほら、休憩は一時間しかないのよ。早くお昼を買ってきなさいな」
立山に促され、圭吾は店を出た。
すぐそこにあるコンビニへ行こうとした足が、逆の方に向いた。外の空気が吸いたい気分だ。
アーケードを抜けて右に曲がる。ぼんやりしながら大きな通りを歩いていると、白く四角い建物が右手に見えてきた。淡い黄緑の木製ドアがお洒落だ。その前に、腕を組んで壁に凭れかかっている猛の姿がある。
声をかけようかと思ったけれど、もうひとりの姿に口が閉じた。拓也がいたのだ。ふたりの間に何か、緊張感のようなものが漂っているように見える。いつも笑みを絶やさぬ拓也が真剣な表情をし、猛に詰め寄っているようだ。
どうしようか。何か大切な話をしているのかもしれない。邪魔をしてはいけないと思うけれど、ふたりが一緒にいるのは何故だろうか、という疑問が足を歩道に縫いつける。立山と猛が知り合いだから、そこから拓也と繋がったのか。
「あれ? こばっちさん?」拓也に声をかけられた。
「圭吾? どうしてここに?」猛は一瞬、びくりと肩を跳ねさせたけれど、すぐに朗らかな笑みを浮かべた。
ふたりの傍まで歩き、圭吾はまず拓也に視線を向けた。
「拓也君、仕事は?」
「あっ、ええっと、えへへ」ばつが悪そうに首を竦め、拓也はぺろっと舌を出す。「ちょっと、あの、ええと、うん、ごめんなさい」
「連絡は入れないと。立山さんがすごく心配していたよ?」
「そうだよね。そうなんだけど、あの、そのぉ、ちょっと大切な用事があったから」
「一分あれば、電話くらいはできるでしょう? お店に行ったら真っ先に、立山さんに謝ろうね」
「僕、今すぐお店に行くよ!」拓也は言うと、猛スピードで走り去ってゆく。
「ええっ!? いや、そんな、今すぐでなくても」彼の背中に声をかけるけれど、その姿はあっという間に見えなくなった。
「な、んだったのかな?」猛に話を振る。
「あー……」猛は口を重そうに開いた。「実は、あいつとは以前から知り合いなんだ」
「そっか」立山から繋がったのか、と尋ねそうになり、圭吾は慌てて言葉を飲み込む。
「立山さんがここの客でさ。あいつを紹介してくれたんだよね。カットモデルをたまに頼んでるんだけど、今日はその関係で」
猛から打ち明けられ、ひとつの秘密がなくなったことに胸が軽くなった。
「バイトって、猛が頼んでくれた?」
「いや、まぁ、うん」気まずそうに頭を掻いている。「でも、そろそろバイトしようかなって感じの友人がいる、って話しただけだから! 採用してくれとか、そういう風に話したわけじゃあないよ」
慌てたようにして猛は首を振っている。
「うん。信じるし、わかってるよ。ありがとう」
猛は途端に、ほっとしたような明るい表情となった。
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