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君が思う月②
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翠に招かれそっと家の中に入る。
静まった部屋。
夏樹が歩く度軋む床。
ボロボロの壁。
部屋には机、椅子、ベッドだけがあり、ベッドの上に小さい盛り上がりがあった。
布団を被っている”何か”。
それが瑠璃だというのはすぐに分かった。
怖がらせないように瑠璃に声をかける。
「こんにちわ。私、夏樹というの。あなたの母親になりたいの…」
この家に、翠に着いてきた時点で自分の意思は決まっていた。
紫に頼まれたこの子を、私が「母親」として育てる。
愛情を沢山注いで、まるで死んでしまった紫への償いのように。
声をかけられた瑠璃はビクリと震える。
布団をかぶっているが、わかるほど震えている。
すると、翠が入ってきて
「瑠璃様。紫の親友の夏樹さんです。今度こそあなたを幸せにしてくれる方ですよ。」
と言いながらベッドに近づく。
「…ひっ、」
翠がその布団に触れると小さく悲鳴をあげた。
翠は布団をそっとめくる。
そこには小さく丸まって震えるとても小さな少年がいた。
ふんわりとした茶色い髪の毛。
うずくまっているためかおはみえないが、夏樹にとっては愛らしいと思えた。
「…ゃ…ぁ…」
小さく悲鳴をあげながら逃げようとする瑠璃。
「大丈夫です、瑠璃様。」
翠は瑠璃を捕まえて力いっぱい抱きしめてやる。
すると、瑠璃の震えは止まり、翠に自然と体を任せた。
「いい子です。」
そう言って翠は抱きしめながら頭を撫でてやる。
「明日の朝まで夏樹殿には瑠璃様と一緒にいてもらいます。よろしいですか?」
翠は夏樹を見る。
「はい。わかりました。」
「瑠璃様、大丈夫です。とってもお優しい方です」
翠は瑠璃に微笑みかけながら言う。
「では私は退室いたします。近くのホテルに泊まるので何かあったら電話してください。」
翠は電話番号の書いてある紙を夏樹に渡した。
「はい」
ここから長い夜がはじまった。
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